明日香#嫌い | ナノ
明日香に向けられていた視線は、まさしく憎しみそのものであった。眉根に皺を深く刻み、鋭く細められた彼女の瞳に映っていたのは紛れもない私の姿で、一体どうして私は彼女にこんなにも憎しみを向けられているのだろうかと思い巡らせながら、カードを1枚ドローした。彼女とは別に友人なんて枠組みの関係などではなかった。同級生と表現するのがおそらく一番しっくりくるだろう。名前と顔は頭に記憶している、しかしながら授業や行事以外で言葉を交わしたことなどはない、そんな程度でしかない接点であった。だから何故その射殺すような視線を向けられるかが全くもってわからなかったのだ。
せっかく端正な顔つきをしているのだからそんなに怖い顔をしないで微笑めばいいのに、そんな風に思いながら彼女にトドメの攻撃を叩き込んだ。己のライフの尽きる音に愕然としている彼女を見て、ああ、と思い出したことがあった。そう言えば授業で何度かこのように対戦する機会があったけれども、彼女が私に勝てたことは一度も無かったのだ。ああ、所謂一度も勝つ事が出来ない妬みと言ったところだろうか。勝てない悔しさは同じデュエリストとして理解は出来るが、そこまで睨みつけるのは全くもって理解は出来ないなと心の中で溜息を吐いた。こういうタイプは現実でそのようなことをしたら神経を逆なですると知っていたから。
彼女は別にデュエリストとして実力が無いわけではなかった。筆記試験も常に上位に名を連ねていたし、彼女の繰り広げるデュエルの展開には私も学ばされる点も多々あった。その彼女が唯一倒せない相手が私であったのだ。見るからにプライドが高そうだし、何度やっても倒せない相手に悔しさが積み重なり、あの様な形になったのだろう。私だったら憎しみよりもリスペクトが積み重なるものだろうに、何故あのように歪曲していくのだろうか、不思議で堪らなかった。しかしながら、あの射殺すような視線が嫌ではないと感じている己に気がついて、思わず身震いした。
ある時の実践デュエルで、私は目の前の相手よりも隣のデュエルリングで行われていた試合に視線が釘付けであった。隣で戦っているのは彼女と、それから万丈目くん。完膚無きまでに叩きのめされた彼女は、唖然とデュエルリング上で膝を付いていた。そして彼女が視線を上げた時に、気づいてしまったのだ。その視線は私が向けられていた、あの憎しみの視線。私に向けられていた、私だけの視線が、別の人に向けられている。心の奥底から焼け付くような何かがこみ上げてきた。どろどろと喉奥に張り付くかのようで気持ちが悪い。ねえ、それは私だけのものでしょう。そんな簡単に他の人間に目移りしないでよ。
授業後、私は教室を出ていく彼女に早足で駆け寄った。彼女の左腕を掴み取り、それから告げた。
「デュエル、しましょう?」
きっと万丈目くんより、完膚無きまで叩きのめして無様に敗北を突きつければ、彼女は私に視線を向けてくれる。ねえ、そうでしょう。
そんな怯えた視線じゃなくてあの時のような殺す気の視線、向けてよ。
20170113--------------