吹雪#花の蜜 | ナノ
遊び人、すれ違いざまに名前どころか顔も見覚えのない男が吐き捨てて言った。ここにいると言うことは少なくともブルー寮の人間なのだろうと思った。嫌味か悪口のようなその言葉は僕の隣にいた亮の耳にも届いていたようで、彼は眉根にしわを寄せながらその男においと呼びかけた。だがその男は足を止めるそぶりすら見せることなく、その姿に亮が呼び止めようと動いたが、僕はその行動を制止した。見ず知らずの男にそんな風に言われようとも別になんとも思わないし、僕にとってはどうだっていいことであった。男の嫉妬はみっともないね、そんなセリフを見えなくなっていく男の背中に小さく呟いた。


「逆に褒め言葉だと思わない?」


僕にはそう聞こえるねと微笑めば、亮は呆れたようにため息をついた。ほどほどにしておけよ、そう言いたそうに見えた。むしろ逆に亮はもう少し遊べばいいのに、と思った。顔は整っているし成績も優秀、それから真面目で、教諭からも生徒からも人気高いというのに、とんとそっち系の話題は聞いたことがない。言わないだけかと思ったけれども、そんな隠し事をできるような男ではないことは僕がよくわかっている。長い付き合いだからね。いつだか明日香が言っていた気がする。僕の女子に対する執着と、亮の女子に対する興味とを、足して2で割れたのなら良かったのに、と。そうそう、先ほどの亮と同じような顔をしながら言っていた。僕はそれを聞いて思わず笑ってしまった。果たして足して2で割ったそれがちょうどいいものであるのだろうかと。

吹雪様、と呼ぶ声が聞こえた。そちらの方に振り向けばそういえば今日はあの子と約束していたんだっけとおもいだした。それじゃあね、と亮に別れを告げてあの子の方へと歩を進める横目で、やっぱり呆れた顔をした亮が見えた。名前もうろ覚えの女の子の腰に手を回し、口から出るまま適当すぎる話を繰り広げた。自室へと向かう道中で、いろんな女の子が此方に視線を向けてくる。羨望や嫉妬やで、ぐちゃぐちゃで、無様な姿だと思った。明日こそは私が、なんて言葉が聞こえてきて思わずくくっと喉で笑ってしまった。


「何が面白いの?今日のあなたとても楽しそう」
「そうかな、そう見える?」


どいつもこいつもバカだなって思ってさ、なんて口にしたら目の前の女は怪訝に思うだろうか、それとも悲しむだろうか。僕の見た目に勝手に酔いしれて、それはとても簡単なことかのように己の身体を差し出す女ども。その光景に嫉妬や羨望を向ける他の女ども。それからそんな俺を目の敵にする男ども。どいつもこいつもバカばっか。俺に押し倒されて制服をはだけさせているこの女も、紛れもなく。

どいつもこいつもバカだ。暗闇の中小さく吐き捨てた。


「女どもから食い物にされている貴方も、ね」


聞こえていないだろうと思っていたものだから、投げかけられた言葉に呼吸と動きが一瞬止まった。下から俺を見上げる女は俺の考えを全て見抜いているかのように嘲笑っていた。女の細い指がシャツの隙間から俺の胸板を撫ぜる。そのくすぐったさに止まっていた思考が再び動き始めた。
はて、この女の名前はなんだっただろうか。

20161213
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