万丈目#拍手ログ | ナノ
靴箱からローファーを抜き取り、コンクリートに放り投げながら、風が涼しくなってきたなあとふと思った。つい先日までは焼け焦げるような日差しにヒーヒー嘆いていたというのに、最近では日が落ちる頃には夏服では物足りなさを感じるほど風は冷たくなってきていた。暑い夏が終わり、秋がすぐそこまでやってきているのだろう。何故だか秋風は私をノスタルジックな想いに追いやるのだ。この時期に特段思い入れがあるわけでも、なにか思い出があるわけでもない。冷たい風が肌を撫ぜる度、理由もない切なさが襲い来る。理由が無いものだから、どうしようもないのだ。
秋風を一息吸い込みながら、私は地面に落ちたローファーに足を突っ込んだ。

西陽に腕を掲げて日差しを避けていた日々が懐かしい。今や夕日は私を優しく照らしている。まるで燃えるようなその夕焼けに、私は思わず足を止めた。なんて美しいんだろう。まるで吸い込まれて飲み込まれて、それから、混ざりあってしまいそう。いや、混ざり合いたい、そんな気持ちが湧き上がってきて、無意識に指先が夕焼けに伸びた。何をしているのだろう、そんなことを思う暇もなく、私は腕を捕まれ現実に引き戻された。私の右腕を掴んで呆れたように疑問符を浮かべていたのは、万丈目であった。

なにしてんの、呆気に取られてそう問いただせば、それはこっちのセリフだ、と彼の眉間の皺が増えた。

なんとなく、夕焼けに吸い込まれるようで…、呟いた言葉は秋風に攫われて静かに消えて行った。私の言葉に万丈目は視線を夕焼けに映し、彼の白い肌は赤く照らされた。その姿も、先程の夕焼け同様とても美しくて、反射的に呼吸が止まった。まるでなにかの芸術作品を前にしているようだ。

綺麗、無意識に言葉が飛び出した。万丈目は自分のこととは全く持って思っていないようで、まっすぐ夕焼けを見つめたまま、ああ、綺麗だなと呟いた。馬鹿め、と思った。


「確かに吸い込まれそうだ」
「でしょう」


彼は同意を表した私に向き直り、掴んだままの私の腕に少しだけ力を込めた。


「お前が吸い込まれては困る。その前に帰るぞ」


先程の眉根の皺はとうに消え失せ、少しだけはにかみながら彼は私の腕を優しく引いた。未だ横から夕日は彼を照らしていて、それから秋風が彼の黒髪を柔らかく揺らす。その姿に、ああ、綺麗だなあ、と私はぼんやりと想いを巡らせた。

~20161021
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