十代#こいつなんなん | ナノ
「はい。私の友達から遊城十代へ1通」
「んあ?」


俺は今まさに屋上で一人コロッケパンに齧り付こうと大口を開けていたところだった。購買で人気1位を誇るこのコロッケパンの美味しさを脳内で想像して、噛み付いた瞬間襲い来るであろう幸福を多大に期待していた。なのに、だ。突然目の前に一通の封筒を突きつけられた所為で思考がそっちに持って行かれてしまった。一体なんだというのだ、と封筒を突きつけてきた我が友人に向かって睨みを利かせたら、呆れたように肩を竦めて両手を広げた。おお、こわいこわいと言ったように。なんてあからさまな反応なんだと眉根を顰めながらコロッケパンに齧り付こうとしていた大口を閉じることにした。俺にとっては食事を邪魔されることは大変遺憾なことである。俺の期待を捻り伏せるようなことをしでかしてくれたのだ、それ相応の事態でなければ怒るぞ。こんなことを言ったら、コロッケパン食べるのを邪魔されたくらいで、と彼女に鼻で笑われてしまうだろうがな。それから彼女の指先から封筒を奪い取り、乱雑に封を解く。


「もっと丁寧に扱いなさいよ。ラブレターなんだから」


俺の手つきにさもあり得ないといったような表情で驚愕を表しながら、彼女は俺の隣に腰掛けてどっからか取り出したコロッケパンの封を破いていた。お前もコロッケパンかよ、なんて思いながら封筒の中から便箋を取り出し、ざっと文章に目を通した。長ったらしい文であったが、要約すると好きだ付き合えって事らしい。だったらそう書けばいいのに面倒くせえな。苦い顔を隠しきれずにお届け人の彼女の方へと視線を向ければこいつは俺より先にコロッケパンを頬張っていやがった。なんだか負けたような気分になって、堪えきれない溜息が溢れた。


「返事は?」
「ノーだ。お前こういうのもう持ってくんなよ。相手すんのが面倒くせえ」
「…なんで貴方みたいなしょうもない男がモテるんだか」
「俺が聞きてえよ」
「万丈目くんみたいな紳士な人がモテるのが当然だと思うのだけれど」


その言葉を聞いて思わずうげっと声を漏らした。もちろん隣にいる彼女がその声を聞き逃すはずもなく、なにか文句でも?と言わんばかりに威圧的な笑顔が俺に向けられていた。気圧されて反論や悪態は喉の奥へと押しやられてしまい、罰が悪くなった俺は行き場のない指先を不自然に彷徨わせた。不意に指先が当たったのは先ほど噛りかけていたコロッケパンの包装紙で、仕方なしにそれを拾い上げて改めてかぶりついた。


「…お前」
「五月蝿いわね」
「まだ何も言ってねえぞ!」
「ええ好きよ!悪い!」
「まだ聞いてねえっての!」


まあ、確かに聞きたかったことはその事であり、予想していた答えもそれそのものであったが。ちらりと横目で彼女を見やれば悔しそうにコロッケパンにかぶりつきながら恥ずかしそうに頬を染めていた。万丈目に惚れてるなんて、アホだなこいつ。


「万丈目はお前の事なんとも思ってないと思うぞ」
「知ってるわよそんなこと」
「やめとけって。他にいいやつ紹介してやるからよ」
「誰を紹介してくれるっていうんだか」
「俺」
「は?」
「俺。お前のことなんとも思ってない万丈目より、お前のことが好きな俺の方がいいだろ」
「はあ?」


眉根を寄せて、嫌悪感丸出しの表情を浮かべる彼女に、さっきの可愛らしい表情はどこへ行ってしまったんだと思った。はあ?と声を発してからその後何も答えも問いかけもせずにコロッケパンをただひたすら普通に咀嚼し続ける彼女。人が告白してんのに、なにこいつは頬一つ染めず無反応なわけ?んでもってそっちのけでコロッケパンにかぶり付いてんの?あれ、俺今告白したよね?は?

20161122
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