カイザー#クソッタレ | ナノ
クソッタレ、綺麗な顔を歪めて吐き出された彼女の汚い言葉に、俺は表しようもない感情が背筋を伝った気がした。デュエルの閉幕に握手を求めたが、彼女は苦々しい顔で俺の手のひらを振り払った。このように、今まで一度たりとも握手を交わせたことはなかった。

彼女は実に安直な人間であった。己の感情にも、行動にも。彼女の瞳はいつだって俺を気にくわないものとして睨みつけていた。俺としては彼女に何か粗相をしてしまった覚えは毛頭ない。だが初めて会ったその瞬間から、彼女の瞳は俺を睨みつけていたのだ。それから彼女は言ったのだ、貴方を完膚なきまでぶちのめす、と。俺はとてもとても驚いた。俺に向かってそんなぞんざいな発言をする輩は今まで一人たりともいなかった上、粗末な言葉を吐き捨てたのはなんとも見目麗しい女子だったのだから。桃のように柔らかそうな唇から吐き出されるのは愛らしい甘い言葉の方が良いものだと反射的に思ってしまったものだ。

それから彼女は言葉通りの未来を手にするために、何度も俺に勝負を挑んできた。デュエル中も彼女は己の感情にとてもとても安直であった。俺にダメージを与えれば愉快に唇を歪ませ、キーカードを引けば俺を苦しめる想像をしているのか込み上げる笑いを押し殺している様が見て取れた。随分性格が歪んでいるものだと思ったが、彼女に愛想をつかすどころか獰猛な彼女に俺はのめり込んでいった。彼女の興味が俺だけに向いている、まるで親の仇のように睨まれている、その事実が如何にも俺を猛らせるのだ。彼女と対峙すると、ぞくぞくと快感か愉悦か、首筋を撫ぜられる思いだった。

いつしかデュエル最中、効果を読み上げる彼女の唇から目が離せなくなった。俺を罵倒し、俺の逆境に弧を描くその唇から。あの唇に噛み付けたのなら、想像を超えた幸福に襲われるだろう。きっと快感に身を悶えさせるだろう。欲しい、欲しい、酷く渇望し無意識に喉がゴクリと音を鳴らした。デュエルで彼女を叩き潰し、それから握手を求め、そのまま引きずり込んで噛み付いてしまえばいい。自分の思いついた実に単純な計画に思わず笑ってしまった。しかしながら生憎彼女は握手に応じることはなかった。憎っくき俺をぶちのめすまできっと応じることはないのだろう。

そう、まさにぶちのめすまで彼女は己に納得せず、握手をすることすら拒んだのだ。なんてったって今まで俺は全ての対戦で勝ってきたわけではない。今日だってデュエルの結果は俺の負けである。残念ながら僅差での決着で、もうワンターンあったのならば俺が勝っていた運びの試合だった。彼女にとってはこの勝利は俺をぶちのめした、には入らないらしい。差し出して無惨にも彼女に叩かれた右の手のひらをなんとなしに見つめた。それから彼女が、次こそは、と唇を噛み締めて言った。噛み締めた唇が鬱血しているようで、それを目にした瞬間、叩かれた右手でもう一度彼女に手を伸ばしていた。今度は伸ばすだけでなく、彼女の腕を力強く握りしめ、それから引き寄せた。意外と軽いんだななんて思いながら唇に噛み付く。唇を唇で塞ぎ、舌で舌を絡め取る。彼女の呻き声とともに形にならない罵倒が俺の口に吐き出されている気がして実に愉快な気分であった。

彼女の感情が彼女の口から俺の口へ。彼女の感情で身体が満たされる気がして、脳髄がとろける様な快感、幸福感が背筋を貫いた。これが愛しいという思いだろうか、俺はよくわからなかった。でもわかることが一つだけある。唇を離したらきっと彼女はこう言うだろう、クソッタレと。

20161020
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