十代#拍手 | ナノ
あちぃ、じわりじわりと滲み出る汗を額に感じながら、呟いた。雲ひとつない青空に、眩しくて目を開けていられなくなるほどの日光。こんな中外回り行ってこいだなんて、俺に今から死んでこいって言っているようなものだ。思わず首元に指を伸ばしネクタイを緩める動作をしてしまったが、そこにはネクタイはなく、そういえば先日クールビズが始まったんだったと気がついた。ネクタイをしていることさえも忘れてしまうくらい、思考力を奪うじりじりと焼け付くような熱さだ。クールビズが導入されたのがせめてもの救いである。引くことのない熱さに舌を出して苦い顔をしているとチリンチリンと後ろから自転車のベルを鳴らされた。その顔のまま振り返れば自転車に跨った後輩がいて、ひどい顔っすね、と笑っていた。その姿を見て、余計に嫌な気分になった。

なんてったって今月からしょうもないコスト削減プランが、我が社には導入されたのだ。それは本当に心から呆れるコスト削減であった。俺は重い足取りで後輩のすぐそばに止めてあるもう一つの自転車に営業カバンをぶち込んだ。我が社では営業車の削減が行われたのだ。おかげで近場のエリア担当社員は自転車で外回りをしろとのご命令だった。減価償却も終わってない営業車を削減するなんて、馬鹿げたプランにほとほと呆れたものだ。そんな計画するなんて取締役たちは暑さで頭をやられたのではないかと思ったね。投資を丸々無駄にしたコスト削減プランだ。もしかしたら俺の理解の及ばないところでなにか深い策略が有るのかもしれないが、このプランを境にこの会社やべえんじゃねえかって考えが俺の頭を半分くらい占拠し始めたものだ。


「うわあ、十代先輩自転車似合わないっすね」
「…ほっとけ」


そこそこ酷い感想を吐き捨てて後輩は、それじゃあ出発しますか、と涼しい顔してペダルを漕ぎ始めた。なんでお前は顔に汗一つ滲ませてないんだよ。俺はオフィスをでた時点で汗が滲んでるというのに、なんとも嫌味なやつだ。嫌々と己のペダルを踏み出し、後輩の背中を追うように漕ぎ出した。

何時もなら車の中から眺めている景色が、今は俺のすぐ横を通り過ぎていき、なんだか不思議な感じがした。耳に飛び込む音も聞きなれたJPOPなどではなく、樹々がそよぐ音とそれから蝉の鳴き声。ミーンミーンと合唱する声に、お前らも暑いのに良くやるよ、と思った。いや、炎天下の中自転車で外回りをしている俺らこそ、他の営業マンから見れば、暑い中良くやるよって感じだよな。信号で足止めされてる営業車から怪訝な視線が飛んでくるのを感じるし。

じわりじわりととめどなく滲み出る汗で、ワイシャツが背中に張り付く感触が気色悪い。憎たらしい太陽を、首を上に向け睨みつけて見たが、明るすぎて逆に睨みつけ返されてしまったように感じた。ちくしょう。ふと後輩の声が聞こえてきた。

前を向いて走らないと危ないですよ、だなんて、お前は俺の親か。
んなことわかってるよ。気だるげに再び前を見やれば、前髪が額に張り付いた。ちくしょう。

ミーンミーンと蝉がなく。
生ぬるい風が肌を撫ぜる。

ああ、今日はあと何キロ自転車をこがねばならないのだろうか。願わくは、取引先のオフィスが節電やらでぬるくあらんことを。

~20160913
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