カイザー#強くてニューゲーム | ナノ
皆がざわつく廊下で、俺は張り出された紙に書かれた名前を見上げていた。入学してから中間テスト、期末テスト、それから課題テストと幾度とテストが行われ、その度に上位者の点数と順位が張り出されてきたが、俺の名前の順位は一度たりとも変わることがなかった。加えて言うならば、俺の隣の彼女の名前も微動だにすることはなかった。彼女の左隣に俺の名前。もはやそれはこの学園で定位置となりつつあった。またか、と心で小さくため息をついているのをいざ知らず、皆は俺を褒め称える。さすがだ、と。確かにはたからみたら良くできた成績かもしれないが、俺は今までに一度も彼女に勝ててはいないのだ。それなのに褒め称えられるなんて内心複雑な気持ちなのである。そして彼女の名前の下に記載された点数を見て、どうにも苦笑いがこみ上げてきた。彼女に勝つことは無理なのかもしれない、可能性があるならば彼女と並ぶことくらいだ、と満点の数字に諦めに似た思いでゆっくりと瞳を閉じた。

友人たちはよく俺に尋ねてきた。一体どんな風に勉強をしているのか、と。全く同じ質問を、俺は今まさに彼女に問いたいと強く思っていた。言ってはなんだが、俺自身、自分が勉強が得意であると自覚しているし、テストに対してそれなりに対策をしている。しかし最大限自信を持って解ききったときでさえ、ミスというものは着いて回るものだ。満点近い点数は出したことはあるが、満点など一度たりともない。それなのに彼女は平気な顔して完璧を叩き出すのだ。敵わない、心からそう思われる相手である。


終礼の後、先生に言いつけられた用事を済ませて教室に向かえば、そこには人っ子一人おらず静かな空間が佇んでいた。テストの結果がわかって皆開放的な気分に包まれているのだろう。浮き足立って早々に帰宅していくクラスメイトが容易に想像が出来た。自分も帰ろうと思い、鞄に教科書を詰め込んでいるときにふと頭をよぎった。今日張り出されたテストの結果と、数学で犯したしょうのないミスのことを。彼女はきっと俺のようにつまづくことなく答えを導き出したに違いない。…少しだけ復習してから帰るか、そう思いながらつい先ほど鞄に仕舞った教科書を取り出した。ノートとテストの問題用紙を机に広げて再び問題に挑もうとしていたところ、ふと教室のドアが大きな音を立てて開けられる。思わずそちらに視線を向ければ、彼女が驚いたような顔してそこにいた。なにやってんの丸藤、と彼女が問う。それはこちらの台詞なのだが。


「少し復習してから帰ろうと」
「うえ、テスト週間終わった後も勉強?」
「…君はしないのか」


そう自分で問いかけたあとに思い出した。ああ、今回のテスト彼女は復習するようなところはないのか、と。俺の問いかけに、あははと言ったように曖昧な返事をし、顔を綻ばせた彼女は何故だか俺の前の席に腰掛けて、俺の問題用紙とノートを覗き見た。俺が答えに向けて格闘した軌跡が残る問題用紙を見ただけで、彼女はここで引っかかっちゃったのね、と呟いた。


「君はすぐに引っ掛けと気がついたのか?」
「うん。見てすぐわかった」
「…そうか」
「丸藤が引っ掛かっちゃうなんて、意外」
「俺は君ほど完璧ではないからな」


丸藤に褒められると照れるね、と彼女は顔色を一切変えることなく言った。


「ひとつ聞いてもいいか?」
「なあに」
「何故そんなに高得点を取り続けるとことが出来るんだ」
「…それ丸藤に言われたくないけれど」


苦い笑いを浮かべなから彼女はそう言った。それから両の腕で机に頬杖を付き、まんまるな瞳で俺を見上げる。薄ピンクの唇が孤を描き、それから言葉を紡いだ。


「私、人生をやり直してるから。

だから、人より頭が良いし、テストでどんな問題が出るかも分かるの」


強くてニューゲームってやつ?と言った彼女の瞳が妖しく輝いた気がした。思わずひとつ息を吸い込んで、それからなにかを言おうとしたけれど、言葉は出てこなかった。彼女の言葉はどう考えたとしてもあり得ないことなのに、そうなのだと思わされるなにかが彼女の瞳には宿っていた。彼女が掴んでいたテストの問題用紙が指先から放たれて、ひらりと床に落ちていく。その間にも彼女から一瞬たりとも視線を外すことが出来なくて。彼女はふわりと笑う。信じるかどうかは俺次第、そう言われている気がした。

20160824
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