十代#友人 | ナノ
突然の電話であった。十代はだいたいいつも突然な男だったから、別に特段驚きはしなかったけれど、こいつは二十代半ばになろうともおちつかないやつなのだなと思い笑みが零れた。まあ二十代になろうとも彼は永遠に十代なのだから仕方ないのかね。なんちって。
彼からの暇か?の誘い文句に、つい先日見たばかりのドラマ相棒に出てくる某課長の顔が反射的に頭をよぎった。某課長に声をかけられる右京さんてこんな気分なのかなあなんて思いながら、右京さんの口調を真似て暇ですよと十代からの誘いに乗ることにした。呼び出されたのは駅前のスターバックス。十代のことだからどうせ待ち合わせ時間には間に合わせて来ないだろうと思い、私は待ち合わせ時間の五分後につくように店に向かった。そう言えば昨日から新作が始まったんだっけ、と思いを巡らせながらスタバのウインドウにさしかかれば、なぜか店内に十代の姿が見えた。驚きで足を止めていると彼はグリーンのストローで抹茶クリームフラペチーノを啜りながら私に向かって手をひょいとあげた。こいつが待ち合わせに間に合わせてくるなんて。

赤いシャツに黒いスキニースボン。グリーンのドリンク。カラフルだ。
向かいに座る十代の抹茶クリームフラペチーノの残量は半分を切っていた。彼の飲むスピードが早いのか、それとも随分前からスタンバっていたのか。どちらにしろ別に罪悪感などは湧いて来ない。今までの待ち合わせで彼に待たされた時間を考慮したならば。

「俺、プロポーズする」

豆乳ラテをずずずと啜りながら十代を見つめた。変に神妙な面持ちだったのはこのためかと思ったけれど、友人にプロポーズする予告をするためだけにそんな神妙にならなくてもとも思った。今からこんなんだったら本番どうなんのさ。ていうか十代も真面目な顔が出来るのか。彼の意気込みになんて反応しようか迷っていると、そんな私に反して十代は御構い無しに自分の意気込みをさらに披露してきた。給料三ヶ月分のマリッジリング。それからベタなゼクシー今月号。そして婚姻届。今この場で広げられたら、周りからしたら私にプロポーズしてるように見えるんだけれど、と私は苦笑いするしか出来なかった。



それはまた突然の電話であった。まあ、またか、なんて思いながら私は十代の呼び出しに応じることにした。どうせこないだのプロポーズするどうのこうのの続きを聞かされることになるのだろうと思いながらまたまた待ち合わせのスタバに向かった。今度は待ち合わせ時間には間に合うように向かったさ。十代を待たせるのって、なんか、気持ち悪い、気分的に。今日は何を飲もうかなと考えながら到着したのは予定の時刻10分前であった。しかしながらウインドウから見える店内にはまたまた十代の姿があった。十代がこんなに早くスタンバってるなんて怖いんですけど。彼の時計早まってるんじゃないのかしら。ウインドウ越しに目が合って、グリーンのストローを銜えながら十代はひょいと手を上げた。今日はバニラクリームフラペチーノの選択らしい。

ネイビーのシャツに白いスキニースボン。
それから白いドリンク。シンプルだ。
向かいに座る十代のバニラクリームフラペチーノは4分の1を切っていた。きっとずっと前からこの店で待っていたのだろうなと思った。残っている氷の粒がほぼ溶けかけているのだから。

「プロポーズ、断られた」

ずずずと啜っていた豆乳ラテを思わず噴き出しそうになった。プロポーズすると言っていた口調とたいして変わらずそう吐き捨てた十代を見て、私はギクリと胸が跳ねた。あの時以上に、なんて反応していいのかわからなかったから。しかしながら、断られた割りにはたいして落ち込んでいるように見えない。ていうかプロポーズって断られるものなのか。

「プロポーズって成功するもんだと思ってた」
「いや私もそう思ってたよ」
「じゃあ俺、随分貴重な経験が出来たってことか」
「え、そういうもん?」

長年付き合っていた恋人に振られたというのに随分淡白な彼の態度に、こういうやつだから断られたのではないかと思った。しかしながら彼なりに真剣に考えて、万全な準備をして挑んだというのに、残念ながら彼女には届かなかったというわけだ。確か3年くらい付き合っていたんじゃなかったっけ。小柄で、笑顔が可愛くて、十代には勿体無いなと思った印象がある。

ふと十代が指先で遊ばせている小さな箱に目がいった。前回会ったときに言っていた、給料三ヶ月分の結晶。するりと彼からの奪い取り、中身の指輪に指先を伸ばした。豪華な石がセンス良く散りばめられた銀色の輪っか。十代の三ヶ月分が詰まっているのだと思うと随分重い代物だなんて思った。

「もう必要ねえからやるよ」

さして興味のなさそうに指輪を一瞥する十代を見て、私もいらねえよなんていってしまえば彼は帰り際にスタバのゴミ箱にでも捨ててしまいそうな気がした。それよりかは私が頂いて、かつ換金をして彼に返したならば、彼の三ヶ月は少しでも帰ってくるのではないかと考えついた。うん、そうしよう、自らの考えに賛同し、私の企みに気付かぬ彼に小さく微笑んだ。

20160816
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