少年の思い出 | ナノ
私の祈り


どこへ行くの?

尋ねても十代くんはやっぱり困ったように笑っていた。二人きりの屋上には冷たい風が強く吹いていた。二人の制服を、髪を風が荒々しく揺らしていて、なんだか十代くんが風に攫われてしまうんじゃないかと思った。

「俺は、思い出を巡っているんだ」

思い出を巡っている?不思議なことを言うものだ。何故だか言葉を挟んではいけない気がして、私は彼が次の言葉を紡ぐのを息を押し殺して待った。

「遠い未来、時間を遡ることが出来るようになる。俺はどうしても、君にもう一度会いたくて、戻ってきたんだ」

会えて良かったと思うし、会わないほうが良かったとも思っている、視線を俯かせながら十代くんは言う。とても非現実的なことを彼は言っているのに、嘘には聞こえなくて、彼から視線を外せなかった。

「時間を遡って君に会って、幸せな日々を過ごして、俺は欲張りになった。君を失って、また会いたくなって、会いに行って、それの繰り返しになったんだ。君との思い出の日々を延々と巡っている」

もう何回巡ったか覚えていないくらい、呆れたように両手を広げ彼は乾いた笑いを零した。私は彼の言わんとしていることがなんとなく察せられて、思わず一歩踏み出した。嗚咽に似た何かが奥底からこみ上げてくる。振り絞って紡いだ言葉は風に連れ去られてしまいそうなくらい、弱く消えてしまいそうだった。

「帰ってしまうの?」

十代くんは首を横へ振る。

「いいや、消えて無くなるだけだ」

何度過去へ遡って若い頃をやり直しても、魂はすり減ってしまうんだよ、そう言って彼は笑った。

ああ、だから十代くんはどこか大人びていたんだ、とか、どうにかならないのだろうか、とか、貴方のことが好きなのに、とか。色んな考えが頭に溢れかえってぐちゃぐちゃになって、それから、貴方は居なくなってしまうんだ、そう思ったら涙が溢れてきて止まらなくなった。そんな私に彼は優しく笑いかけて言うのだ。心配しなくても大丈夫、遊城十代は初めから居なかったことになる、君が泣く理由も無くなるんだ、と。

「十代くんが、すき」

その言葉に十代くんの顔からすっと笑顔が消えて、ああ、消えたくねえな、という言葉が聞こえた。

涙を袖で乱暴に拭い去って顔を上げた先には、誰も居なくて。嗚咽を1つ吐き出すと、また涙がこぼれ落ちた。

20170812
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