少年の思い出 | ナノ
私の戸惑い


家に居ても、学校に居ても、十代くんの言った言葉が頭の中をぐるぐるぐるぐる巡り巡っていた。消えてしまいそうな言葉だったけれど、きっとあれは聞き間違いなんかではない。時間がない?不思議で、意味深な発言であった。妙に引っかかりのある言葉を言っておいて、彼は今日も今日とて笑顔でみんなの中心に居た。しかし、私とたまに目が合うと、困ったように笑うようになった。以前のように見られて恥ずかしいところを見たわけでもないのに、彼はそんな笑顔を私に向けるのだ。それがなんだか、嫌で。好きな人と目が合っているのに、なんだか胸の奥が不快にざわついた。

真相が知りたいならば、尋ねればいいだけだ。それは、わかっている。けれども、彼の抱えている何かを知ってしまえば、もう戻れなくなる、何故だかそんな風に思った。彼の力になりたい、けれど踏み出してはいけないと私の何かが警笛を鳴らす。はっきりとしない己の考えに、嫌気が差す。どうにもならない思いを押し込めながら、私は彼を見つめることしか出来なかった。

いつものように友人たちとお弁当を食べていると、日直か何かの仕事を思い出したのか、彼女らは慌てたように謝罪を残して教室を飛び出ていった。頑張って、と彼女らを見送った私は、彼女らのお弁当と共に一人取り残され、思わず苦笑いをしてしまった。何ていうか、シュールな光景。そのうち戻ってくるだろうから先に食べ進めておこうと思い、ハンバーグに箸を伸ばした。もぐもぐとハンバーグの美味しさを噛み締めていると友人の席に誰かが腰掛けた。てっきり仕事を済ませて友人たちが帰ってきたものだと思い、早かったね、と笑いかけたのだが、そこに居たのは友人ではなく、十代くんであった。あまりにも予想外な状況に笑顔のまま思わず固まってしまった。十代くんは相も変わらず困ったような笑顔で私に笑いかける。困ったように笑いたいのは、私の方だよ、なんては言えなかった。

「…卵焼き、いる?」
「うん、いる」

あの時と同じように十代くんは、はいどうぞと言葉をかける間もなく、卵焼きを掻っ攫って行く。ぺろりと平らげた後、彼は言ったのだ。最後だからな、と。一体どういう意味?なんて問いかけようとしたけれど、タイミングよく友人たちが帰ってきて、入れ替わるように十代くんは、じゃあなと去っていった。また卵焼き取られたんだ、と笑う友人を他所に、私の鼓動は嫌に高鳴っていた。ねえ、十代くん、何処かへ行ってしまうの。

20170807

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