少年の思い出 | ナノ
私の予感


そう言えば、十代くんは時折どこか哀愁を漂わせた表情をすることがあったなと、ふと思い出した。どこか遠くを見つめて、何時もの笑顔とは正反対な顔付きで、なにか思い悩んでいる様にも見て取れた。そんな時には此方から声をかけることはしなかった。いや、出来なかった。してはいけない、本能的な感覚でそう感じ取っていたのだと思う。私なんかではどうにもならないかもしれない、けれどなにか力になることができたらいいのに、そう思いながら私はいつもそんな彼を見つめていた。

業後に、担任に頼まれた他のクラスへの届け物をした際に、ついでと言わんばかりにそのクラスの友人と暫し会話に花を咲かせた。クラスが別であると顔を合わす機会が少ないし、お互い積もり積もった話題が沢山あったせいで、中々話し込んでしまった。その後に自分のクラスへと戻ってみると、扉を開けるまでもなく人の気配が感じられず、みんなが帰宅し人っ子一人いなくなるほどまで雑談をしてしまっていたことに驚いた。いつも賑わっている教室がしんと静まり返っているとなんだか不気味である。教室に置いてある荷物をとって私も帰路に着こうと扉に手をかけた時、中に誰かがいることに気が付いた。扉のガラス窓から見える後ろ姿は、十代くんであった。幸運だ、なんて思ったのと同時に、どうしよう、という思いが頭を過ぎった。今の十代くんは、話しかけてはいけない雰囲気の、十代くんな気がしたのだから。扉を開けるか否か。いやけれども私の荷物教室の中にあるのだから、ここは一歩踏み出す他選択肢はない。息を一つ飲み込んで、力を込めた指先で扉を開いた。

ガラリという音に振り返る十代くん。愁いを帯びた彼の瞳と表情に、どうしていいかわからない思いに襲われた。

「まだ、残ってたんだね」

勇気を持って振り絞る様に出した声は、少しだけ掠れていた。十代くんは眉尻を下げた笑顔を作りながら、待ってたんだ、と言った。好きな人からそんな風に言われればトキメキで胸が飛び跳ねてもいいはずなのに、この時ばかりは何故だか、少しだけ胸が締め付けられた気がした。少し、だけ。

「もう、時間がないからな」

呟くような言葉だったため、聞き間違いではないだろうかと思ってしまった。彼の背中から強く照らす夕日の逆光のせいで、彼の表情は、曖昧だった。

20170614
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