少年の思い出 | ナノ
私の想い


ずっと見てた、なんて好きな人に言われたらときめかない人はいるだろうか、いやきっといない。あの時の十代くんを思い出すだけで顔から火が出る様な思いになる。まるで少女漫画のワンシーンを味わってしまった。あれは私にとって一生の思い出になったよ。きっと幸せが顔に表れていたのだろう、共にお弁当を食べていた友人たちがなにニヤニヤしてるのよと顔を覗き込んできた。勘ぐってそう尋ねてきた彼女らの顔も中々ニヤニヤしているよと思った。

顔が綻んでしまう原因をみんなに言ってしまおうかと思ったけれども、私の様に彼に想いを寄せている人がいたらどうしようとふと心配が頭を過ぎったせいで言葉が出てこなかった。同じ想いを抱く人と共感出来たならば、それはとても楽しいことだと思う。けれどもいつかはきっと衝突が起こるに違いない。友人とその様な衝突が起こる可能性があるならば、此処で安易に私の想いを告げるべきではないと思ったのだ。

「内緒」
「えーなによ、気になるじゃない!」
「そうそう、気になるだろー」

内緒と告げた言葉にブーイングにも似た返事が友人たちから返ってくる。が、しかし、その中には明らかにトーンの低い声が紛れていて、思わず咀嚼途中のキュウリを飲み込んでしまった。キュウリの塊が喉を通過するのが気持ち悪い。噎せながらトーンの低い声の主を見やれば、私たちの輪の中に当たり前かの様に紛れ込んでいた十代くんが居た。それから十代くんは、教えてくれてもいいじゃんかー、なー、なんて友人たちと謎の同意の言葉を交わしている。本人の前でこそ言えるものか!と言わんばかりに誤魔化しの笑顔をするしかなかった。

「言わない代わりに卵焼きくれよ」

よくわかりもしない会話の途中で乱入してきたのは、集り目的か、と思わず笑ってしまった。此方から差し出す前に、十代くんは私のお弁当箱から卵焼きを掻っ攫っていく。あっという間に咀嚼して彼の喉元を通り過ぎていく卵焼きを私は呆然と見送った。

「美味い」

ただ一言そう告げて彼は笑顔を残し、私たちの輪から去っていった。その表情がどこか懐かしむかの様に見えたのは気のせいだっただろうかと思い耽る私を他所に、友人たちは十代くんの事を相変わらずの男だねなんて笑っていた。

20170320
--------------
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -