帝の君 | ナノ
jealousy?


掲示板に張り出された一枚の通達を見て、ため息が出た。何かの処分などの通達ではない、むしろ逆に喜ばしいことだ。だが、今の俺にとっては心から喜べない、そんな心境であった。また、女を調達しなければならないのだから。目ぼしい候補者の顔を頭に思い浮かべ、俺は携帯に入っている電話帳を漁りながら掲示板を後にした。



今日は寝起きが最悪だった。いつも良い睡眠をし、心地の良い寝起きを過ごしているわけではないが、今日は極端に最悪な寝起きだった。唐突に目覚ましに起こされたわけでも、部屋の扉が割れるようなけたたましいノックで起こされたわけでもない。目が覚めたら、ただただ気だるさが襲ってきたのだ。もうすぐ生理でも始まるのだろうかと考えを巡らせたがどうにも予定日には程遠いし、天気が悪いわけでもない。もしかしたら覚えていないが夢見が悪かったのかもしれない。魘されて、そのせいで気だるいのかも。起き上がる気にならない気持ちを無理やり振り払い、授業に遅れないように支度を始めた。今日は食堂に顔を出さずにそのまま教室に行こう。誰かと言葉を交わすのすら億劫だ。

ずるずると日課のアップルジュースを啜りながら私は掲示板の前に立ち尽くしていた。張り出された紙を見て、ああそういえば明日だっけと思った。成績上位者トーナメント、その下に連なる選出者の中に見覚えのある名前を見つけ思わず鼻で笑ってしまった。きっと寝起きが悪かった今日だから、そんな嘲笑じみた反応が出たんだろう。きっと普段だったら反応すらしない。丸藤亮の名前に今だけ嫌悪感が湧いたのだ。私は一度も選ばれたことのないこのトーナメントに、彼は当たり前かのように3年連続で選ばれていて。ただデュエルの才能があるだけだったら良かったのに、裏の顔を知ってしまっているから、腹立たしい思いが今だけはどうにも湧き上がってくるのだ。本当に今日は機嫌が悪い。自分で言うのもなんだけど。彼に会ってしまったら言葉を滑らせてしまいそうで、心から遭遇したくないと思った。


頬杖を付きながら、ただただ先生がひたすら喋り続ける姿を眺めていた。もちろん眺めていただけだから、先生の話なんぞ右から左へと頭に入ることなく抜けていた。むしろ耳に入ってすらいなかったかもしれない。つんつんと左肘を突つかれて、私は視線だけ左に向けた。隣に座っているのは三沢君で、当たり前に突っついてきたのは彼だった。視線で用件は何かと訴えかけた。残念ながらまだ私の機嫌はあまり良いとは言えず、口元に笑みを浮かべる労力を使う気にはなれなかった。


「授業後空いていたら俺に付き合ってくれないか」
「デートのお誘い?デュエルメインのデートだったら引き受けるわ」
「まさしくその通りさ。明日に備えて調整がしたくてね、ぜひ付き合って欲しい」
「…ああ、三沢君も選抜者だったっけ」


思い返したのは今朝見た掲示だった。そういえばそこには三沢君の名前もあった。筆記と実践の両方を加味されるため、彼が選ばれるのは当然だろうと思った。だって筆記、三沢君に勝てたことないもの。私も努力して勉強に励んでいるつもりでいるのだが、なかなか結果に結びつかない。上位者ではあるが、一番ではないのだ。そういう点からは、入学してから実践でも筆記でもトップを取り続けるカイザーには心底尊敬する。それは同時に、言いようのない小さな嫉妬を孕むこととなるのだけれど。私の中で燻っている。私は三沢君から視線を外して、再びぼんやりと前を見つめた。


「三沢君」
「なんだい?」
「カイザー、倒してね」
「もちろん。そのつもりでいるよ」


間髪入れずに返ってきたその答えに私は思わず驚いてしまった。でも彼がそう答えてくれたおかげで、私の機嫌は少しだけ良くなった。ほんの、少しだけ。

20160624
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