帝の君 | ナノ
rule of thumb


目を覚ましたら視界が真っ暗だった。何事か、と慌てて身を起こせばバサバサと音を立てて何かが落ちていく。それを見やれば「続・フィールド魔法の世界」とタイトルが書かれた本が床に突っ伏して居た。ああ、そう言えば図書館で寝転びながら本を読んでいたんだ。たぶんそれで、眠ってしまった、と。こんなはずじゃなかったのにと頭を掻きながら本を拾い上げる。まあ今日はなんの約束も入れてないし、すぐに提出しなければならない課題もない。たまにはこんな風に寝落ちするのも心地が良いし。本の続きを読むか否かを少し悩んだ後、返却することに決めた。本を持って立ち上がろうとした瞬間、私を貫く視線に気がついた。そちらの方を見やると、カイザー先輩がそこにはいて、私は思わず、ひい!と声をあげて飛び上がった。怖いんですけど。私の飛び上がり驚く様をなにを考えてるのかよくわからない目で観察し、腕組みをしつつこちらを窺うカイザー先輩。相変わらず読めない人。


「なにか、御用ですか」
「図書館に来たら君が寝入っていた。だからそれを見ていた、それだけだ」
「それだけだ、って…」


とてもとても意味不明なのですが。ていうか本で顔が覆われていたはずなのによく私だってわかったな。


「君の髪色は特徴的だ」
「…ああ、なるほど」


あとオベリスクブルーの女子で図書館の椅子を連ねて居眠りをする心当たりは君くらいしかいなかったからな。続いた言葉に絶句した。そうですか先輩私のことそんな風に思っていたんですね。間違ってはいないです、間違ってはいないけれど、なんかこう、ムカつく。特に用は無い様だしお暇しようとしたら、再び呼び止められる。ここで律儀に止まってしまうのがきっと彼との接点を切り離せない原因なのだろうなと思った。


「話をしよう」
「は?」
「君と話がしたい」
「どのようなお話をですか」
「なんでもいい、くだらないものでも。なんでも」


急にそんなことを言われても…、私の体は硬直した。このまま立ち去っても聞き入れるまで付きまとって来そうだ、そんな予感がした。私は呆れながらも彼の腰掛ける隣の席に座った。向き合うのは、なんとなく、いやだった。それにしてもなにを話せば…、と頭を巡らせているといい話題があるじゃないかと授業中に三沢君とやりとりしたことを思い出した。これくらいしか思い浮かばないし、まあ、いいだろう。


「そう言えば、インタビュー記事拝見しました。カイザー先輩の好み、意外ですね」
「…ああ、あれか。別に好みを答えたわけじゃあない」
「はい?」
「俺の経験則でいくとあの手の女子は緩いんだ」


横に並んでいるから彼がどんな顔をしているかはわからない。きっといつもと変わらない表情をしているのだろうけど。会話の流れから、私は嫌でも予想がついた。なんで私は彼とこんなしょうもないやり取りを交わしているのか教えて欲しいよ誰か。返ってくる答えがわかりきっていつつも私は返答をせねばならなかった。なにより彼が会話をご所望なのだから。


「緩い、と言いますと」
「股が緩い」


ですよね、あなたの考えこの短期間で否が応でも学習しました。出来ることならその回答に、頭のネジも緩い、と付け加えといて欲しいものです。

20160622
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