帝の君 | ナノ
shake off his right hand


「これで終わりよ!十代にダイレクトアタック!」


胸が高鳴っていた。呼吸も荒い。足が震えて立っていられない。ソリッドビジョンが十代を吹き飛ばし、彼のライフが尽きる音がした。あーあ、負けちまった、と悔しそうな十代の声が耳に届いた。私は、勝ったのだ。やっと勝てた。長いデュエルだった。彼とのデュエルはいつもドキドキハラハラさせられる。攻撃してもトリッキーに躱されて、予期しない攻撃が襲い来る。気を抜いてしまえばあっという間にひっくり返されて、ひとつひとつの選択がすべて勝負の結果に結びつくのだ。だからひとつのミスも許されない。刻刻と変わりゆくフィールドにも順応しなければならない。
それだからこそ、十代とのデュエルは本当に楽しい。

ガッツポーズをひとつして、それから私たちのデュエルを見学していたみんなにピースをした。明日香は笑顔で手を振りかえしてくれて、となりの万丈目は私が十代を打ち負かしたことが気に食わなさそうな顔をしていた。きっと彼は、次は俺と戦えと十代に言うだろう。万丈目は負けず嫌いだから。


「お疲れ様。素敵なデュエルだったわ」
「ありがとう明日香。本当に十代って予想外な展開をしてくるから作戦通りに事が運ばないわ」
「それを君が言うかい?俺からすれば君も十分トリッキーな攻めだと思うけどね」
「あら、三沢君私のこと戦いづらい相手だって思ってるってことかしら?」
「それ以上に攻略し甲斐のある相手だと思っているさ」


その言い方だと戦いにくいって部分は否定してないわね、三沢君。彼らとそんな会話を交わしながら私は観客席に腰下ろし一息ついた。デュエルリングを見ればいつのまにか万丈目がそこに上がり込んでいて、十代に戦いを挑んでいるようだ。二人の戦いはどんな結末になるだろう。先ほどのデュエルの反省がてら観戦することにしますか。

みんなが立って観客フェンスに身を乗り出しながら始まったデュエルを観戦する後ろで、私はデュエルディスクのセメタリーからカードを取り出し隣の席に並べた。こうやって別のコンボが出来たのではとか、色々新しい戦略を探るのだ。また次の勝負に生かせるように。並べたカードを上から覗き込んでいると、私以外の影が差した。ふと顔を上げるとカイザー先輩が一緒になって覗き込んでいた。色々と私の常識からは外れた常識をお持ちの人ではあるが、デュエルの腕はこの学園一と謳われるほどの実力だ。なにか助言があるなら賜りたい。私のデュエルどうでしたか、言葉が口をついて出た。彼は私のカードを見下ろしたまま、言った。


「悪くない。俺も学ぶところがあるデュエルだった」


カイザー先輩にそんな言葉を言われるなんて予想だにしてなくて、私は体が固まってしまった。冗談やお世辞を言うような人ではないと思う。だからこそ、どう反応すればいいか、わからなくて。


「でも、君は顔に出過ぎる。キーカードを伏せた時がバレバレだ。
コロコロ変わる表情を、見ていて飽きなかったがな」


ひっ、と息を一つ飲み込んだ。まさかそんなところまで見られていたなんて。自分では自覚がなかっただけに、羞恥心で顔が熱くなった。そんな私を見てカイザー先輩は笑った。それからごく当たり前かのように頬に彼の指先が伸びてきて。我に返った私はその指先を掴み取った。衝撃で顔の熱は一瞬で引いていった。彼は私とまっすぐ視線を合わせ、口を開く。


「拒まれたのは初めてだ」


本当にどんな生き方をしてきたのだ、とか何時もだったら彼の言葉に呆れ返るところだが、そんなことよりも、彼の指先の熱さに、私は衝撃を受けていた。

20160620
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