帝の君 | ナノ
she is No.seven


「ねえ、明日香。カイザー先輩てどんな人なの?」


明日香はドローパンの袋を開けながら私の方を見つめた。その瞳が驚きと期待に煌めいているように見えて、私は首を傾げた。なにか変なことを言っただろうか。


「いえ、だって、あなたから男の人の話題を振られるなんて初めてだったから」
「いや好きとかそんなんじゃなくて、単なる興味よ」


彼の本性を知る前だったら憧れから恋い慕う感情に変化する可能性は3%くらいあったかもしれないが、今となってはその可能性はゼロである。残念ながら。それでもいい、それがいい、なんて言う女の子が絶えないから彼があんなんになっているのだろうけど、残念ながら私はそっち側に入ることはないのである。バリッとドローパンの袋を破く音が響く。さてさて、明日香の本日のドロー運は如何程か。


「どんな人って言われてもねえ。意外と面倒見がいいわよ。後は評判通りとしか言いようがないわね。真っ直ぐでフェアで、真面目で。昔からそうよ」
「へえ、そうなの。あ、ステーキパンよこれ!さすが明日香!」
「あなたはまだ色気より食い気のようね…」


もぐもぐと肉の塊を噛み締める。美味い。明日香の口ぶりからするに嘘をついているように感じないし、長い付き合いの彼女も知らないのだろう彼の本性を。(むしろ性癖?)完璧な人にも裏があるっているのは少し面白い。女子を穴扱いするのは頂けないが、彼も人間味のある姿を持っている点では良いことを知れたような…。いや、全然良いことじゃないわ、私は考えを振り払うように頭を横に振った。明日香はそんな私を見てよくわからなさそうに首を傾げていた。

それからいつも通りに授業を終えて、放課後のデュエル場でバトルしようぜと十代に誘われていたのでそちらに向かっていた。十代には負け越しているから今日こそは打ち負かしてやる、とデッキを手に意気込んであるいていると物陰に見慣れたブルー女子の制服姿が見えた。ああ、明日香先に来ていたのね、と駆け寄っていくと、私が明日香だと思っていた人は全くもって別人で、しかもおまけにカイザー先輩と抱き合っている光景に出くわした。しかもまさにキスする直前。幸い女の子は私の方に背を向けていて、たぶん私がここにいることに気がついていない。しかしカイザー先輩は私にすぐ気がつき、ふっと吐息を零すように笑ったのが見えた。なんか、むかつく。彼は全く気にしないように彼女とキスをしたのだ。私は抜き足差し足忍び足でその場を通り過ぎた。こんなことするなら部屋に連れ込めよ、早足で歩きながら心からそう思った。てか、ついこの前見た女の先輩とは別の女の人だった。さすがカイザーモテモテだ。


「よお、遅かったじゃん!」
「ごめん、十代」
「なんか顔引き攣ってないか?」
「いや、来る途中でちょっと見たくないものが見えちゃって」
「なに言ってんだ?お前。そんなことより早くやろうぜ!翔も俺も明日香も準備万端だ!」
「ちょっとまって、すぐ準備するわ!」


デッキの中身を確認し、デュエルディスクにセットする。誰から始めようか、とみんなの方に振り返ったら、十代が私の後ろに向かって、カイザー!と呼んだ。冷や汗が、額を伝う。ゆっくりと再び振り返ると、先ほど遭遇したカイザー先輩がいた。少し微笑みながら私を一瞥しつつ制服の襟を伸ばし、それから十代に向かって手を上げていた。ああ、十代とカイザー先輩仲良かったっけ、カイザー先輩も呼んでたのね十代、…言ってよ。

この人は一体何人の女を手玉に取っているのだろうか。そう考えていたら彼がすれ違いざまにカードを一枚落とした。ヒラリと地面に着地するカード。


「おっと人造人間7号のカードが」


7号…。まさかな私の心の声を聞けるわけもないし、恋人を7号までつくっているわけ、そんなわけが…。しゃがんでカードを拾い、こちらを見上げるカイザー先輩。その顔は意味深な笑みを刻んでいた。ああ、人造人間7号を落としたのは絶対わざとだ。

20160617
機械族なので持っていてもおかしくはないよねと言い訳させてください。
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