帝の君 | ナノ
give you hush money


顔色悪いわよ、授業中に隣の明日香が私に囁いた。心配ありがとう、私がこんな体調なのは理由がわかってるから大丈夫。まだ耐えれるよ、とへらへら笑いながら明日香に返事をした。授業を受けている最中にふと昨日の出来事を思い出してしまったのだ。私の斜め前の席、硝子を覗いたときあそこにカイザー先輩いたんだよなあ、と。自分の席のすぐそばで行われていたことを嫌でも頭で考えてしまい、思わず吐き気がこみ上げて来たのだ。そしてそれが顔に表れている、そういうことだ。なんとかあのあとカイザー先輩の前から撤退することが出来たけれど、私の顔を覚えていないはずがない。学校ですれ違ったときとか非常に気まずい。別に脅されているわけではないけれど、威圧感を感じるのだ。カイザーたる威圧感が。今までもあまり接点がなかったのだ。このまま彼が卒業するまで穏便にすごしたいものだ。



「お昼はどうする?食堂でとる?」


終わった授業の後片付けをしながら明日香が尋ねて来た。食堂の光景を頭で想像し、今は騒がしいところは避けたいと思った。


「今日は購買で買って静かなところで食べるよ。気分も落ち着くかも」
「そうね、それがいいわ。付き合うわよ」
「あら、いいの?明日香」
「たまにはね」


そう言ってウインクをする明日香は美しかった。

それから校舎を後にし、木の陰になっていて涼しそうな場所に腰掛け私は場所取りをし、その間に明日香がわたしの分も含めてドローパンを買いに行った。明日香はなかなかドロー運がいい。良い昼食にありつけそうだと彼女の帰還を待ちわびた。そんな私に近付く足音がひとつ。今一番会いたくない人ナンバーワンの人であった。


「ひとりか」
「か、カイザー先輩…」
「昨日ぶりだな。で、ひとりなのか」
「い、いえ、明日香を待っていて…」
「明日香の友人なのか君は」
「ええ、はい、入学して気があって…」


私が明日香の友人だと聞いて、彼は少し罰が悪そうな顔をした。彼と明日香が仲が良いのは知っている、彼女に例のことを知られたくないと言ったところだろうか。告げ口するのを釘さしに来たのか。そんなことされなくても言わないし、言ったところで信じてもらえないだろうに。彼は帝王なのだから。


「私、言いませんよ誰にも」
「そうか」


だからこれ以上関わって欲しくないんですけど、その台詞はさすがに言えなかった。心からの本音だったけど。こんなんでも一応先輩なのだから舐めた口は聞けない。それからふいに彼は私の顎を指先で持ち上げ、顔を近づけてきた。突然の口付けの素振りに触れ合う前に彼を突き飛ばした。羞恥心とか驚きとかよりも意味不明という考えで身体がとっさに動いたのだ。顔色を変えず突き飛ばされた態勢のまま、カイザー先輩はこちらを見ていた。なにを考えているのか読めない表情。


「口止め料だ」


これまたさもあたりまえかのように彼は言い放った。いらねえよ、むしろ嫌がらせだよ、私は顔を引きつらせながら心で吐き捨てた。

20160526
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