帝の君 | ナノ
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万丈目とのデュエルに無事勝利を収めた私はとても清々しい気分であった。柄にもなく大きな声で喜びを表せば、反対側にいた万丈目の怒声が響いた。あんなタイミングでキーカードを引くな!と。


「あれさえなければ負けはしなかった!」
「残念!運も実力のうちよ万丈目」


右手でひらひらと彼に向かって振ってやれば彼はより一層悔しそうな顔をしてこちらを睨みつけていた。この勝負の結果ついこないだまではイーブンだった勝敗数が、私の勝ち越しとなったのだ。このアカデミアでかなりの実力を誇る万丈目に勝ち越しているという事実は私に大きな自信をもたらしてくれる。このデュエルで得たものはそれだけではなかった。ずっと頭をぐるぐると回っていた答えのでない疑問への苦しみから、少しの間だけでも開放してくれたのだ。私を見つめてくる万丈目の表情はいつの間にか優しい面持ちに変わっていて、私は小さくありがとうと呟いた。その言葉は彼に届いたようで、礼を言われるようなことではないと言いたげに腕を組んで胸を張っていた。


彼とのデュエルを終え、私たちは少しだけ先刻のデュエルを振り返り、それぞれの予定のためにその場で解散をした。十代はなかなかトリッキーに攻めてくるが、万丈目は堅実な手でゲームを組み立てそれを止められないと一気にひっくり返される。そのため彼の戦略をどのように防ぎ自らの道を切り開くかで、先の先読みが重要になってくる彼のデュエルは、十代を相手にするより苦手かもしれないとふと思った。しかし、それだからこそ彼という壁を乗り越えたとき、打ち震えるような高揚感を手にすることが出来るのだ。そう、今のように。触れれば切れてしまいそうな緊張感のデュエルから解放され、私は廊下を歩きながら大きく伸びをした。じんわりと血流の巡りが良くなるのを感じていると、ふとある光景が目に留まった。教室の窓から見える白い制服と、それから重なる女。思わず足が止まる。壁際に追いやられた彼に女が蕩けたような顔で擦り寄る姿に、全身の血が逆流するかのような不快感が襲った。たったこれだけで、私は引き戻されてしまったのだ。あの泥々に混ぜ合わさった悩みの元に。

妙に激しく鼓動が脈打つ。久しく目にした彼の本性に現実を突きつけられた思いになった。私の追い求める彼は居ないのだ、と。私は足が凍りついてしまったかのようにその場から一歩も動くことが出来ず、彼らの姿を見つめるしかなかった。このまま彼らが混ざり合う姿まで見るのか、見たいのか、現実を受け入れるのか、色んなことが頭を駆け巡っているさなか、彼は女を振り払い女は私のいる方ではないドアから去っていった。言葉は聞こえなかったが、見た光景から察するに彼が拒んだように思えた。それから彼はずるりといったように地面に座り込んだ。このまま立ち去るべきだとそれが正しい選択なのだとわかっているが、頭を抱え込んで項垂れる様子に、私は教室のドアへと手を伸ばしていた。
その選択が齎す結果は。

20160820
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