帝の君 | ナノ
monologue


「別に恋人になりたいとかそういうわけじゃないの。でも、でも、ただ、彼は私の憧れで。それで、そのままで、居て欲しかった。私のずっと手の届かない人で居て欲しかった。その辺の女が容易く手を伸ばせるような人だって知ってしまって、私は失望した。憧れで居て欲しい、私の我儘だってわかっているけれど、願わずには居られない人だった」

机に突っ伏しながら、想いの丈をつらつらと吐き出す私を、きっと呆れたような視線で万丈目は見ているんだろうと安易に予想が出来た。その想像通りに彼はあからさまに呆れた声色で言った。貴様は本でも書き連ねるつもりか、と。


「大体なんで俺様にそんな話をするんだ。天上院くんのが適任だろうに」
「明日香に話すのなんだか恥ずかしくて。別に万丈目ならいいかと思って」
「その『いいか』の前には『どうでも』の枕詞がつくのだろう。まったく貴様というやつは」


頭上から彼の溜息が聞こえてきた。そんなことをわかっていて酷く毒づいたとしても、こうして付き合ってくれるのだから万丈目は本当に良いやつだ。答えも出ないでただ自身の迷いを吐き出すだけの私はたぶんとても面倒くさいやつだと思う。けれども吐き出さずには居られない。じゃないとなにかに押しつぶされてしまいそうで。けれども根本の悩みの種に直接文句を言う勇気などあるわけもなく。吐き出す先は友人しか居なかったのだ。犠牲者に選んでごめんね万丈目。今は彼の優しさに甘えよう。


「相手は誰だと聞く気はないが、貴様は結局どうしたいのだ」
「…さあ?」


突っ伏したままちらりと視線だけ彼の方へと向ければ、眉根を寄せて苦々しい顔をしていた。意味不明、といったところだろうか。その顔が面白くて、思わずふふと笑ってしまった。


「…ひとつ提案がある」
「なあに」
「デュエルするぞ」


唐突なお誘い。それから彼は私の腕を引いて椅子から立ち上がらせる。白くて細い指先の癖して案外強い力をしているものだ。そう言えば万丈目とは何度もデュエルをしていたけれど今のところ引き分けていたっけ。今日ここでデュエルすることで勝ち越すか負け越すかが決まるわけだ。そう考えると変なことでくよくよ悩んでるわけにもいかず、頭のスイッチはデュエルモードにすぐさま切り替わった。


「そう、その顔だ」


デュエルを見据える私の顔つきは先ほどまでとは異なっていたようで、それを見た彼は口端を上げてにやりと言うように笑った。ああ、成る程。彼の狙い通りと言うわけね。


「貴方って本当に最高ね」
「貴様に言われるまでもない」

20160815
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