帝の君 | ナノ
He is my desire.


思い出したのは、初めてあの人のデュエルを間近で見たあの瞬間だった。まさにカードで語り合うその戦いに私は心を震わせた。デュエルリングの観戦席で騒ぐ皆に混じることなく座ったまま、私は繰り広げられるデュエルに魅了されたのだ。私もあのようになりたいと思った。きっとあの場にいた誰もがそう思ったであろう。カイザー先輩個人に強い憧れを抱いたつもりはなかった。ただ、あの様なデュエルをしたい、そう思ったのだ。けれども心の奥底ではきっと、彼を想っていたのだろう。でなければ、こんな想いをすることなどなかっただろうから。

彼に噛みつかれそうになったあのとき、湧き上がってきたのは間違いなく怒りであった。そのあと私に襲いかかったのは、悲しみであった。私にとっての憧れは貴方しか居ないというのに、貴方にとっての私は他の誰でも代わりのきくものだという事実に胸を突き刺された想いになったのだ。この感情の名は、


「嫉妬…」


彼と関われば関わるほど、自分では気がつかなかった自分の奥深くの想いが上へ上へと表れてきて、自分が自分でないようで、怖くなった。この気持ちを理解したところでどうすべきかもどうしたいかも私にはわからない。ただ出来ることならばこれ以上彼と関わることは避けたいと思った。彼と関わることのなかった以前に戻ることが出来たならば、私の心の平穏は戻ってくるだろうから。

手に入らないなんて重々承知である。この学園にきて、諦めることには慣れたものだから。デュエルも、勉強も、勝てない相手はいる。だから私にはどんなにもがき足掻いたとしても手に入らないものなどたくさんあるのだと、知っている。

20160812
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