帝の君 | ナノ
maybe...maybe


「付き合っているの?」

ごくりと飲み込んだアップルジュースがよからぬところに入り込んで、げっほげっほと咽せこんだ。液体が気体を通すところに入り込むとこんなにも苦しいのかと身を持って思い知った。死ぬときは是非とも溺死は避けたいものだと思った。それから呼吸を落ち着かせて私は突然の質問を投げかけてきた張本人を見やる。私の反応を見てもしや言い当ててしまったのかとばかりに目を見開く彼女にあり得ないからと一言吐き捨てた。さも呆れたように言ったのに、それでも彼女は引くことはなく、だって昨日見たわと言葉を続けた。見たって、なにを?と考えたところで昨日の出来事を思い出して、ああと頭を抱えた。きっと見られたのはカイザー先輩に腕を掴まれて引きとめられているシーンだろう。会話を聞いたのならばそのような関係ではないと分かり切ったものだろうが、はたからみたらそのような関係ともとれる構図だったであろう。見られたのが明日香でまだよかったと胸を撫で下ろした。


「カイザー先輩と付き合うなんて、あり得ない」


その言葉は明日香に向かって言ったもののはずなのに、自らにも言い聞かせるかのようにも聞こえた。あの人と付き合うなんてなんかビョーキでも移されそうだ。非常に失礼な物言いだけれども、可能性はあり得なくないでしょう?不思議と彼のことを考えるとどうにも不愉快な気持ちが湧き上がってきて、いつのまにかストローを噛み締めていることに気がついた。行儀の悪い。無意識にでてしまうこの癖にため息を吐きながら歯型のついたストローを口から解放した。それからじっと見つめる明日香の瞳に気がついた。どうしたの?と首を傾げて問いかければ彼女は困ったように笑った。それから言ったのだ。


「でも、あなた亮のこと、好いているでしょう?」


きっと、私はとても苦々しい表情を浮かべたと思う。明日香は私の反応を見てやっぱり困ったように笑ったのだから。自分では気が付いていないかもしれないけれど、あなた亮を見つめているもの、明日香は言った。違うのよ、それはそういう想いがあって見ているのではなくて、と言葉にしてみたものの、なぜだか言い訳じみていて不愉快だった。なぜわたしが言い訳などせねばならないのか。


「けれども想いを寄せていないで誰かを目で追うことなどないと思うわ」
「…そうね。そうだとしても、私が寄せている想いは甘ったるいものなんかじゃあないわよ」
「想いを寄せているのは認めたわね」


ふふふと明日香は笑った。なんだか彼女に負かされた気分だ。しかしながら、ここで私は自らの想いを改めて実感させられた。


「私は、」


失望しているのかもしれない。カイザー先輩に。
わかっているのだ、失望しているということは、私は彼に期待をしていたということを。
私は、彼に憧れていたのだ。

20160806
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