帝の君 | ナノ
please forgive me


日が傾きかけた授業後に、私は本を抱えて居心地の良さげな木陰を探していた。来週提出のレポート用の本を、風を感じながら優雅に読もうと企んでいたのだ。ベストなポジションを見つけた私は嬉々として腰掛けた。風当たりもいいし涼しさと日の当たり具合と申し分ない場所だ。太い木の幹に背を持たれさせながらページをめくっていると、先日お世話になった黒いコートの彼がやってきた。昨日のことを思い出し、苦笑いで挨拶をすると、彼はやっぱり何時もの不機嫌顔をしていた。


「なにか用でも?もしかして、同じ本を借りたかったとか?」
「そんな用事ではない」


なにやら言葉にするのが億劫かのように口ごもり、それから彼は何かを差し出した。かと思えば、それを軽々と放り投げた。唖然とする私に、万丈目は勢い良く鼻先近くに指を指して、別に昨日のお返しとかじゃないからな!と乱暴に言い放って走り去ってゆく。彼の投げたものは私の膝に着地していて、それはドローパンであった。ドローパンと彼の背中を交互に見つめ、思わず声を出して笑ってしまった。昨日は報酬としてドローパンを求めたくせして、今日はそれを返してくるとは。万丈目は本当に良いやつだ。そして、とても素直でない男だ。

彼からの贈り物を今食べようか、それとも後にしようかと迷っていると、今度は別の訪問者が私の上から影を落とした。風が大きく吹いて、訪問者の制服を揺らす。見上げることもなく視界に入った白い制服に、私は思わず一息飲み込んだ。一体なんの御用ですか、とドローパンを見つめたまま呟いた。返事が返ってこなかったため、それは本当に呟きに成り果ててしまった。それでも私は彼を見上げることはしない。どんな顔をすればいいかわからなかったから。けれども多少の興味はあった。彼がどのツラ下げてここに来たのかということに。どうせいつもの真顔なんだろうけれども。それから隣に彼が腰を下ろすのがわかった。そっちがその気なら、私はここから立ち去ろう。とても素敵な場所ではあったが、こうなっては仕方が無い。自室ででも読書に励むとしよう。荷物をまとめ再び本を抱えて立ち上がろうとしたその瞬間、腕を掴まれた。彼はいつも私を捕まえようとする。きっとその理由も、誰でもいい、そんなことだろうと思いながら、意を決して彼の方へと視線を向けた。


「漸くこちらを見てくれた」
「もう一度お聞きします、御用はなんでしょうか?」
「君に謝りたいと思ったんだ」
「謝る?なにか過ちを犯したのですか?」


皮肉めいて彼に尋ねた。


「先日は、悪かった」


変なことを言うものだ。この前の首元噛みつき未遂事件について謝罪だなんて。だってあの後やってきたあの女に同じことをしたのでしょう。その女には過ちを犯しただなんて感じてないでしょう?それなのに私には謝罪だなんて笑ってしまう。嘲笑がこみ上げてきて、口先から零れるのを必死に抑えた。こんなんでも彼は私にとっては先輩であり、学園では誇るべき人間なのだから。彼の指先をゆっくりと解き、私は有無を言わさぬように強く微笑む。それから何も言わずに本を抱えて立ち去った。
ぐちゃぐちゃと私の胸を掻き乱す、この感情の名を私は知っている。

20160718
--------------
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -