帝の君 | ナノ
feeling horny


「なにを言っているんだ貴様」


こいつに聞いたのが間違いだったかもしれない。私は頬杖をつきながら、真っ赤に染め上がった顔をする万丈目を見つめ、苦笑いをするしかなかった。質問した内容が悪いのもあるかもしれない、でもまさかこんな反応が返ってくるなんて思いもしなくて、これなら三沢君にでも相談すべきだったなと思った。


「ごめん万丈目、忘れてくれていいよ」
「意味不明な質問をしておきながら、次の瞬間には忘れてくれだと?どこまで貴様は自分勝手なんだ」
「いやだって、答えにくそうな反応していたから。万丈目にはそういう経験ないのかしらと思って」
「な!勝手に俺様を決めつけてくれるな!」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。答えてくれるならば私の助けになるし、ぜひとも万丈目の意見を聞きたいわ」


にこりと微笑んで万丈目を見つめてあげたならば、彼はバツが悪そうに視線を即座にそらした。ああ、意地の悪いことをしてしまったかな、と再び苦笑いがこぼれ落ちる。私は彼に尋ねたのだ。女性の首元に噛みつきたくなるのはどういう感情を抱いた時か、と。万丈目の意見を聞いて、知りたかったのだ。先日のカイザー先輩が私の喉元に歯を付きたてようとした、意図を。薄っすらと想像はできるのだが、女の私が考えるものとは乖離している可能性もあるし、男の意見を聞きたかった。それで選ばれたのが万丈目。彼の座る席の前に滑るように座り込み、きっと彼は他愛ない話をされるものだとおもっていただろう。だが私は聞きたかったことを直球で尋ねた。彼は予想外の質問とその内容に考えを巡らせ、数秒後には彼の顔はたちまち真っ赤に染まったのだ。もともと肌の色が白いものだから、染め上がった頬はまるでチークをしているかのように可愛らしいと思ってしまった。きっと口にすれば怒り出すだろうから、言葉は飲み込んでおいた。


「…そんなことをするのは情欲に襲われたときくらいじゃないのか」
「まあ妥当な答えね。私が求めていたものでもあるけれど」
「…なら俺様に聞く意味はあったのか」
「問題を解いても答え合わせをしなければなんの意味もないでしょう?そういうことよ」


求めていた答えを手に入れたにもかかわらず、私はどこか腑に落ちない思いでいた。それは自分でわかっていながらも、それをわかりたくはないという葛藤を頭の中でしているからかもしれない。答えを出してしまうのが怖くて、こちらは万丈目に答え合わせをする勇気がなかった。万丈目にお礼を言って立ち去ろうとしたが、彼は私の名を呼び射殺すような視線で睨みつけた。おお、怖い。


「言の葉だけで済ませるつもりか?」
「報酬をご所望かしら?」
「俺様は優しいからな、ドローパンで手を打ってやろう」


にやりと笑って彼は立ち上がる。黒のコートを翻して歩き出すその背中は、付いてこいと呼びかけているかのようだった。はいはい、俺様の仰せのままに。丁度私も小腹が空いていたところだし、甘いスイーツな具材を引き当てたら良いのだけれど、と思いながら万丈目の背を追いかけて行った。

購買部に向かう間に、見つけてしまった白い制服。私は小さく息を吐いた。なぜここまで遭遇率が高いのか、別にいつもと変わりない生活を送っているだけなのに、不思議でしょうがなかった。そこで思いついた。あの出来事があってから、私はカイザー先輩を意識しているのではないだろうか。今までは気づくことはなかったが、彼は意外と私のすぐ近くに居たわけであって、それに意識的に視線が行ってしまってるから、遭遇率が高いと感じるようになったのかもしれない。意識してるだなんて、認めたくない、嫌な感情だと思った。

見つけた視線の先の彼は、やはり女子生徒とともに居た。初めて会話を交わした時に彼が言っていた言葉を思い出した。ただの突っ込む穴だ、と。きっと彼は誰でも良いのだ。そう、だから、昨日の噛み付く首先の持ち主も、私ではない、誰でも良かったのだ。その事実に少なからず落ち込んでいる自分に気がついて、葛藤の答えが出てしまったことに、更なる追い打ちをかけられた気がした。けれども誰かに気付かされるよりは、自分で気づくことが出来てまだマシだった。あの場にいたのが私でなくとも彼は噛み付いていたに、違いない。

万丈目が私の名を呼ぶ。実に不機嫌そうだった。彼に返事をしながらも、頭の中を占領するのはカイザー先輩のことだった。

20160714
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