「こんにちは〜」
「こんにちはじゃねぇよ、43秒遅刻だぞ」
「ちぇ、志々雄先輩はいっつも憎まれ口ばっかりなんだから」
「よくこんな男に惚れた女がいたもんだ」と名前は続けて言った。
「黙れ…っと、そういや宗はどうした?」
「宗次郎なら遅れて来るよ〜」
「んでだよ?」
「女の子に追い掛けられてる」
と、頬を膨らませながら名前は言った。
相当妬いている証拠である。
「流石だな、宗のやつ」
「もう知らない…あ、そういや鎌足さんと由美姉さんは?」
「鎌足はどうせサボってんだろ。由美もどうせサボって男遊びでもしてんじゃねぇか?」
「ふーん…でも志々雄先輩だって授業出ずにここに居たんでしょ?」
「まぁな」
そして彼は口を吊り上げてふっと笑う。
志々雄にはよくある仕草だ。
「スミマセン、遅れちゃって」
「ノックぐらいしろよな」
「随分とお疲れみたいだね?縮地使っても尚追いかけられるなんて…宗次郎は愛されててよかったですねー」
と、明らかに怒っていると読み取れる名前は棒読みで言った。
「僕は名前にだけ愛されてればそれでいいです」
「あっそ…」
こいつ、確実に照れてる。
と、志々雄と宗次郎は思った。
赤く染まる頬を隠すかのようにして名前は二人から目をそらす。
「大体ねぇ、いつも遅れるのは僕のせいじゃないんですよ、あの女たちのせいなんです」
宗次郎がそのセリフを言った瞬間、志々雄はある日の事を思い出した。
「そういや前にお前らと合コン行った時も俺の女が宗に惚れて…」
「あぁ、そんなこともありましたね」
涼しい顔して宗次郎は言った。
別に自分のせいではないとでも言うかのように。
「あぁ、あの人。私メチャクチャあの女に嫌がらせされたような…」
「志々雄さんもよく付き合いましたよね、あんな女と。大体、僕めんどくさいの嫌いなんで合コンとか嫌なんですよ、全く…」
はぁ…と、宗次郎が溜め息をついた。
こんなセリフ、モテるからこそ言えるんだ。
モテないやつはきっとこんなセリフは吐けねぇ、と志々雄だけが思った。
「あ、そうだ!」
「ん?どしたの?」
「名前の家に行かせてもらいますね?名前の家は夜遅くまで両親いないでしょう?」
そう、名前の家は共働きで、夜遅くまで両親は帰って来ないのである。
「別に良いけど…」
「なら三人でカラオケでも行かねぇか?」
志々雄が話を持ち出してきた。
勿論、三人ともゲーセンやらカラオケやらで数え切れない程遊んでいる。
なのに優秀な選抜クラスにいるというのだから、世の中何があるか分からない。
「あ、いいですね!そうしましょう!」
「でも、私そんなお金持ってないよ?」
「いいですよ、別に。志々雄さんがきっと払ってくれますから。ちなみに夜はファミレスでも良いですからね、志々雄さん」
「おい、俺に全部奢らせる気かよ」
「えぇ。志々雄さんはお金持ちなんだからいいでしょう?」
「ふざけんなよてめぇ」
もの凄い表情で宗次郎を睨み付ける志々雄だが、宗次郎は相も変わらずニコニコしていた。
しかし一瞬。
一瞬だけ黒い表情をしたような気がしたのは気のせいか。
「志々雄さんはケチですよね。だから彼女の一人も出来ないんですよ」
「るっせぇ」
「性悪なんだよって女の子達にまき散らそうかな」
「はいはいそうかよ。…しゃーねーから今日だけだぞ、おごるの」
志々雄はそう言いながら机の上に足を乗せ、両手を頭の後ろで絡ませた。
「でもさぁ…皆どうやって宿題やってる?」
「俺はやんねーよ」
「僕は寝る前ですね。宿題の量が多かったらやりませんが」
「2人とも頭いいからいいよねー…」
「名前だって頭いいじゃないですか」
「あ、おい。喉渇いた」
「だから?」
「そこの冷蔵庫にあるコーラ取れ」
はいはいと怠そうに名前が言う。
「ねぇ、テレビでも見ませんか?」
「この時間ならいい○もでもやってるんじゃない?」
「そうですね」
なんという生徒会室だ。
冷蔵庫がありテレビがありというすごい部屋だ。
ちなみに、黒いソファーベッドも置いてある。
宗次郎はそこに横になりながらテレビを見ていた。
しかし、横になるのには一つの策略があり…
「おい名前」
「どうしたんですか?」
「宗にスカートの中覗かれてんぞ」
名前はハッとしてスカートを抑え、宗次郎を睨んだ。
「ちぇ…もうちょっと長く見てたかったなぁ…」
「宗、何色だった?」
「白いレースでした」
「何言ってんのよ!?」
顔を赤らめながら名前が宗次郎に言った。
「だって名前スカート短いから簡単に覗けちゃうんですもん」
と、宗次郎が言った瞬間休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「じゃあここでお開きとしますか」
「俺はサボりだから」
「私は…サボろっかなぁ…」
「名前がサボるなら僕も」
こうして私立天剣高校の休み時間は幕を閉じた…