「ねぇアーサー、あなたはどう思う?」
「うん…まぁ」
「返事になっていないわよ。もう一度言うけど、お父様、私なんかじゃ立派な騎士になれないなんて言うのよ!」
「……………」
「ねぇアーサーったら。どうしちゃったの?」

何を聞いても、何と言っても、アーサーは上の空。
「あぁ」だの「うん」だのしか返事が返ってこない。
いつもなら、いくら彼が武器を手入れしている途中でも私が何か話しかけるとちゃんと受け答えをしてくれた。
アーサーにだけは絶対相談したくない!と思って一人で悩んでいた時も、彼は「何か悩み事でもあるのか?」と私の心の内を見抜いてしまう。

そんなアーサーは、今きっと一人で何かを抱え込んでいる。
そんなことくらい、私にだって分かるわよ。

レマゲンへ遠征へ行って帰ってきてからずっと。
ずっとそうなんだもの。

「アーサー…レマゲンで、何かあったの…?」
「…っ、いや…なにも」
「あったのね」
「本当に、なにもないんだ」
「私には何も言ってくれないのね。私じゃ、アーサーの力になんてなれないというのね」

我ながら、酷いことを言ってしまったと思った。
ズルいことを言ってしまった。
アーサーが、そんなふうに思うような人じゃないって分かってるのに…

無表情のままそう心中で呟いていた。
少なくとも私自身は、無表情でいたつもり。

けれど、私が思っていた以上に私の顔は悲しそうな顔をしていたらしい。
アーサーの表情を見て、私はそのことを察した。

「違うんだ…君のことをそんな風になんて思っていないよ。…ルヴィ、聞いてくれるか?レマゲンへ行ったときのこと」
「勿論よ」

するとアーサーは、どこか安心したような、けれど切ない笑顔を見せる。

私は、いつもとは違って今ではとても弱々しい彼の手をどうしても握ってあげたくなってしまった。
彼の手を包み込むように、そっと自身の手を重ねる。

「レマゲンへ行った時、父上に会ったんだ」
「消息不明だったアーサーのお父様に?」
「レマゲンにいるって噂で聞いたんだ。そしてある家を訪ねたら、そこが偶然今父上が暮らしている家だったんだ」

そのあとも、沢山真実を聞いた。
アーサーのお父上はラーズ教団の神官に命を救われたこと。
さらに、記憶を失ってしまっていたこと。
もっともその記憶はもう戻ったのだと。
けれども皮肉なことに、記憶が戻った頃には助けてくれたあの女性と心が通じ、子供を授かったそうだ。
女性は、アーサーの父上であるハロルドを送り出すことができなかった。
彼は記憶を取り戻したんだから、本当はアーサー達の家庭へ送り出さなければならない。
それが分かっていながらも、やはりできなかったようだ。

私は彼に言うべき言葉が見つからなかった。
何も声をかけられなかった。

あれだけお父様を愛していて、尊敬していたアーサーはそれを聞いてどうしたのだろう。
考えるだけでも辛かった。
本人が一番辛いはずなのに。

「その話を父上の奥さんから聞いたんだ。そしたら丁度父上が帰ってきてね…私は“この人は父上じゃない。騒ぎ立ててすまなかった”と。そう言って家を出てきた」
「…………」
「母上には、父上は死んだと申し上げた。騎士ハロルドは戦争で名誉の死を遂げたんだと。…母上の悲しむ顔は見たくなかったんだ。だから、やっぱり本当のことなんて言えないよ…」
「お父上に戻って来てほしいって言わなかったの?」
「言わなかったんじゃない、言えなかったんだ。綺麗で優しそうな奥さんだったし、赤ん坊もいて、きっと幸せなんだろうと思った。そんな家庭を壊せなかった。だから…」

アーサーはそう言った。
泣きたい時は泣いてくれたっていいのよ。
でも私からはそうは言わない。
自分から言ってくれるまでは、絶対に。

ただこれだけは言わせて。

「自分ばかり犠牲にしないで」
「ルヴィ…俺は、父上の代わりに立派な騎士になろうって。母上の誇りになれるような騎士になろうと決めたんだ」
「アーサーはもう立派な騎士よ。私と十分に張り合えるくらいに。あと…」
「?」
「辛い時は誰だって辛いの。私は不器用だけど、あなたのパートナーなのよ。あなたが辛い時くらいお見通しなんだから…だから、」
「ん、言いたいことは分かったよ」

優しく微笑む彼を見て、目の奥が熱くなるのがよく分かる。

ん、と彼は返事をしたものの、それでもこれから先も何もかもを一人で抱え込むんだと思う。
そんなとき、いつも側にいてあげられるようになりたい。

こんな風に思うようになったのはいつからかしらね。

「ルヴィ、これからもよろしく」
「あ、当たり前じゃない。私はライバルがいないと楽しくないわ」
「本当に、君はいい性格してるよ」


(それより泣いてみませんか)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -