「大好きだったよ、臨也。ううん、今も大好き」
「本当に行くの?」
「うん。…ごめん」
「いいよ、なまえの選んだことだから」
「遠距離恋愛、っていうんだよね。こういうの」
「まぁ、そうなるね」
「……寂しくなるね」
「毎日電話するよ。たまには会いに行くし、なまえも俺に会いに来て」
「うん。ありがと」
「大好きだよ、俺も」
「ごめんね…本当に」
「謝らないでよ。気をつけてね」
「うん。じゃあね」

触れるだけの優しい口付けをした。
当分の間、キスもお預けだね。

あぁ、もう涙が溢れてきた。
一晩中涙が枯れるまで泣いて「行く」って決めた。
臨也も多分、私が泣いたってことに気付いてる。
目、腫れ気味だもんね。
あんまり臨也の目見ないようにしてたんだけどな。


もし「行かないで」って引き留められてたら私臨也から離れられなくなってたよ。
でも、本当は引き留めて欲しかったな、なんて思ってる自分が情けない。
勝手に期待してた私は本当にどうしようもない。
引き留めようとしなかったのは、臨也の優しさなのにね。

それでもずっとこんなどうしようもない私といつも一緒に居てくれてありがとう。

臨也と別れてから3分くらい経ったかな。そんなたった180秒がすごく長く感じる。
ふと後ろに振り向き、ガラス張りの壁に目を向けると臨也はまだ私の後ろ姿を見詰めたまま立っていた。

それを見て足が思うように動かなくなった私の頬は、大量の涙で濡れていた。

「行かないで」

声は聞こえない。
でも臨也の口はたしかにそう動いていた。いつの間に読唇術なんて身に付けてたのかな。

気付いたら私の足は、臨也の方へ走っていた。



(君に言えなかったことがある)