こどもの日の前日。
要するにみどりの日。
五月四日。
ゴールデンウィーク真っ只中の日本。

私の学校だけではない。
日本中の学校が今日は休みだ。

普通の人ならさあ何しようと考えたり既に計画済みだったり。

私の場合は後者だった。
というか勝手にそうさせられた。
勿論折原臨也という眉目秀麗だけどちょっと、いやかなりおかしな彼にだ。

実は昨日の夜…
正しくは今日五月四日の午前0時ぴったりにこんな電話が着たことが始まりだった。

私は寝ていたのだが、着信音に無理矢理起こされた。
ディスプレイを見たら、折原臨也と表示されていたものだから「ああまたか」と思いつつ着信ボタンを押すことに。

「もし「今日何の日か知ってる?」

おいおい私まだもしもし言ってないけど。
別に言わなくちゃいけない理由も無いのだが。

「みどりの日、だよね?」
「世間一般にはね。そう、みどりの日。ゴールデンウィーク。だけどもう一つあるんだよ。だからさ、今日一緒に何処か出掛けない?」
「折原君だから一応聞くけど…今からじゃないよね?補導されるよ私達」
「警察沙汰なんて俺からもごめんだよ。しかも俺はこんな時間に女の子を呼び出すようなやつじゃないと思うけど」
「それでも電話は掛けてくるんだね」
「じゃあ今日の朝十時に池袋の西口で待ってるから」

折原君に一方的に電話を切られた。

そして今────

私は今日のための服を探している。
一応気にはかけるから。
大して顔が良いわけじゃない私が折原君の隣に変な格好で並んだらどうなるか考えただけでも恐ろしい。

「よし、これでいっか!」

私は鞄に携帯と財布を入れ、池袋の駅前に向かった。

待ち合わせ時間まであと二十分。
本来ならもっとすぐ着くのだが、折原君を待たせたら…

ということで早めに家を出た。



♂♀



「げ…」

西口に着いた。
よし折原君はまだ来てないみたいだと思って周りをよく見たら折原君が立っていて驚いた。
ヤバい、待たせてしまっただろうか。

「お…お待たせ」
「意外と早めに来るんだね、名前」

予想外な返答。
これは怒ってないととっていいのかな。

「折原君はいつここに来たの?」
「三十分前」
「すみません」
「嘘だよ。俺待つの好きじゃないからほんとは五分前」
「そうなんだ」

嘘。
本当の本当は三十分前。
初めてだよ、待ち合わせの予定よりこんなに早く誰かを待っていたのは。

心の中でそう呟く臨也のことを、当然名前は知らない。

「ねぇ折原君。今日何の日?」
「誕生日だよ」
「折原君の?」
「そ、誕生日」

それは知らなかった。
しかし私にプレゼントでも求めてるのかな。

買ってプレゼントするのはいいんだけど、私なんかじゃ良い物買えないよ。

「折原君の取り巻きの女の子達の方が私なんかより仲良いんじゃない?私まだ折原君に会ったばっかりだし。確かに誘ってくれたのは嬉しいけど」
「自分の誕生日にまで他人の相談乗らなきゃいけないわけ?…ま、正直誕生日はどうでもいいんだけどね」
「プレゼントあんまり良い物買えないけど出来るだけ良いのプレゼントするから」
「そんなことさせるために今日誘ったわけじゃないから」
「ならせめて食事代は奢るよ」
「いいからそんなこと。ともかくさ、何処か入ろうよ」

そう言って折原君は私の手を握って前を歩き出した。

何だかんだ言って時たま優しい彼にはお礼を言いたい。
いつかちゃんとそのお礼として何か渡せたらな。
でも何を渡せば喜ぶかな…と私は歩きながら考えていた。

「何考えてるの?」
「え、あ、何も」
「顔に出てるよ。何考えてるか当ててあげよっか?」

でた、折原君お得意の爽やか営業スマイル。

「当ててみなよ」

反撃開始!
とかいうノリで私も折原君の営業スマイルを真似してみた。

これだけは言える。
爽快感0。

「折原君にプレゼントあげたいなー。でも何あげたらいいか分からない。何だったら喜んでくれるかなー…ってとこ?」
「なんかこう、ムカつきますね」
「それはどうも」

またイヤーな笑顔。
でも、心底イライラするわけじゃない。
確かに今まで心底嫌だと思ったことはないかな。
それが不思議で堪らない。

「何処か入ろうとは言ったけどさ、何処がいい?」
「取り敢えずお腹空いたかも。朝食べてこれなくて」
「色気より食い気か。たまには食い気以外に無いわけ?」
「彼氏もいないのに色気はちょっと…元々色気なんて無いのに…」
「彼氏いないからこそ、じゃない?彼氏作りたいならさ、少しは必要でしょ」
「折原君にそんなこと言われたくない。あーあ、折原君は何故優しさに満ちた言葉をかけてくれないのかな」
「ふーん。名前は俺に優しさを求めてるんだ」
「別に求めてはいません」
私は握られている右手に視線を落とした。
思いの外彼の手は暖かくて落ち着く。
正直に言うと、今凄く緊張していて、まともに折原君の顔も見れていない。

折原君はきっとこういうことに慣れてるんだろうなぁ。



♂♀



「折原君、今日はありがと」

結局、三食折原君に奢って貰ってしまった。
途中で見た映画は流石に、と私が奢らせていただいたが。

今度、絶対折原君に何かお礼しよう。

「別にお礼とかいらないから。さっきも言ったけどさ、今日は俺が誘ったんだから」
「何で誘ってくれたの?」
「名前という人間はどんな子かなーって。何時もとあんまり変わらなくて期待外れだったけどね」
「なら今日じゃなくたっていいじゃん」
「今日なのに意味があるんだよ」

今日だからこそ、少し俺への態度が変わるかなあとか…

そこまで考えて臨也は思考を強制的にストップさせた。

「折原君の言いたいこととか考えてることは熟よく分からないことだらけだよね。でも今日はちょっと楽しかったかな。折原君の観察対象って分かって楽しかった気持ち半減したけど」
「名前さ、送ってくよ」
「折角勇気を出して言った私の言葉は華麗にスルーなんですね。…平気だよ。私の家から折原君の家まで割りと遠いみたいだしまだそんなに暗くないし」
「いいから家、どっちの方?」
「あっち」

彼は嫌な事や興味の無いものには最初から手出ししないから、多分嫌々送ってってくれるわけじゃないんだと思う。

私が指差した方に折原君は歩き出した。
その時はもう手は握ってくれなかったけど、私にとってはどっちだったっていいことなのだ。
それはきっと、折原君にとってもどうでもいいことだと思う。

確実に会話率が低下したので、帰り道は少しだけ気まずかった。
折原君があんまり話さないのは珍しいな、とか思っていたけれど彼は一人で居るときの方が多いかもしれない。

窓辺に寄り掛かってはグラウンドを見下ろしたり屋上でもフェンス越しに何かを見てる。

色んな事を考えていたら、いつの間にか私の家の前。
一応一軒家だが、今では両親がいないので私には広すぎで逆に心細い。
一人きりは確かに心細い。寂しい。
だからこんな時、誰かに居て貰えると嬉しくて嬉しくて。涙が出そうなのを必死に堪えた。

本当はもう少し折原君に、一緒に居てもらいたい。

「じゃあ、今日は本当にありがとう。また今度ね」
「随分あっさりした別れだね」
「……………」

突然そんなこと言われてもどう返していいか分からない。

「期待外れだったって言ったけど、俺一つ知ったよ」
「何を?」
「名前の家の場所」
「今度折原君の家にも招待してもらわきゃね」
「やめときなよ、マジで」
「妹さん達も見てみたいし」
「いやだからマジでやめときな」
「じゃあ今度よろしくね」
「俺は君とは気が合わないみたいだ」

そして私に背を向けて帰ろうとする折原君。

敢えて彼に何も言わないようにして家の扉の取っ手に手を掛けたけど、折原君に少し遠くの方から声をかけられた。

「じゃあね。期待外れだったけど個人的には楽しめたよ」
「ん、私も楽しかった。じゃあまた」

今度こそ、本当の本当にお別れ。
窓から外を見ると先程とは一変していた空の表情。
西口から家まではそんなに離れてないのに、かなり時間が経っている。

そっか。
今日は何故か少しでも長く折原君と一緒に居たいと思ったから、無意識に歩く速度を落としてたんだ。

そのスピードに、彼が歩く速さを合わせてくれていたということに今更私は気が付いた…───

( 強がりという名の予防線 )



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