―五月。
初めて折原君にお弁当を作って食べてもらった時から既に二週間強、経過した。

私と私の周りの人達の関係は何も変わらないまま、早く時間だけが過ぎ去っていく。
勿論それは折原君にも言えることだ。


たまに学校をサボる彼。
二日に一回はメールを送ってくる彼。
学校に来ては静雄と戦争。
新羅君には手当てしてもらう。
私は相変わらずの食料調達係。
そして席はお隣さん。


何も変わらない。
まあ一つ私が知っていることで彼の周りで変化があると言えば、彼に告白してあっさりフラれてしまう女子生徒が増えているとか…
実際はよく知らない者が多い。
何故。

本人は本人で「教えない」と楽しそうに、そして面白そうにニコニコしながらそう言うけれど。

「で、折原君。次の次の授業は体育なんだって。知ってた?」
「当たり前じゃん。今更何言ってんの」
「時間割りでは今日の四時間目は数学なんだけど。おかしくない?」
「一週間前に担任が言ってたじゃん。来週の四時間目は先生の都合で体育代わりに入るからって」
「失敗したー…」
「あ、言っとくけどジャージ貸さないから」
「うっさい。借りるつもりはない、折原君には」

うーん…これはマズイ。
出ないっていう手もあるんだけどなぁ。
後々体育の先生は面倒だからなぁ。
欠課だと減点大きいし…
やっぱジャージを借りるしか方法は無いか。

同じクラスの子には借りることが出来ないから他のクラスで。
しかし私の他のクラスの子の友達と言えば静雄だけ。

でも静雄なら貸してくれるかも。
いや、やっぱりジャージを貸すのは抵抗あるよね…

けど一応、静雄のクラスに行ってみよう。

「あの、平和島さんいますか?」
「へ、平和島!?あ、あーほら。あそこにいるよ」
「ありがとうございます」

この生徒の冷や汗はそういう意味だろうな、きっと。

「静雄」
「お、名前か。どうした?」
「私のクラス、次の次の授業が体育なんだよね。それで今日ジャージ忘れちゃってさ…貸してくれたら嬉しいなぁって…あ、嫌なら嫌で全然大丈夫だよ」
「ジャージ…」
「やっぱ嫌だよね…」
「い、いや…お前がいいなら、いいけどよ」
「ありがとう!助かります!洗って返します!」

そして私はそのまま更衣室に行きジャージに着替えた。
静雄、ありがとう。



♂♀



「や、名前ちゃん。今日そんなに暑い?」
「新羅君。このジャージちょっと長くて」

新羅君は腕捲りしている私を見て不思議に思ったようだ。
確かにこのジャージ大きすぎる。
首は全て隠れるどころか顎まで隠れてしまう。
だからジャージのチャックは締めないようにした。

明らかに私のじゃないことバレバレだよ友達に。

授業中折原君に何度怪しまれたか。

「誰かに借りたの?ジャージ」
「うん、そうなんだよね。ほら」

私はジャージの胸の位置に刺繍されている名前を新羅君に見せた。
平和島と書かれているその刺繍を。

「やっぱりね。いくらなんでも大きすぎだし。臨也には誰から借りたか言わない方がいいよ。その平和島って書かれてる所も極力見せないようにした方がいいかもね。名前見るだけでも嫌がるし」
「やっぱりそうだよね…」

三時間目の授業も終わり、グラウンドに出た私は折原君から離れた場所にいた。
私と仲の良い三人は折原君に話かけに行ってるから一緒に居られるわけもない。

休憩時間の十分間、ただジッとしていることしか出来なかった私に鐘が四時間目の開始を告げた。

「準備体操するぞー」

準備体操嫌だなぁ。
座席順なんだよね。

「名前さ、どうして休憩時間ずっとあんなとこに居たの?」

1、2、3、4…と規則的な声が聞こえる中でも折原君の声はしっかり私に行き届いた。

聞こえなかったフリをするのもいいが、折原君には無視されたとすぐにバレてしまうのでそれは逆効果。

「いやあ、やっぱ木陰は涼しいじゃん」
「名前がいた場所、バリバリ日当たりだったけど?」
「日向ぼっこもたまには良いもんだよ折原君。木陰に入ったらその後日向ぼっこする。私はそれ大好き」
「見苦しいよね、名前って」

やる気無いですよオーラを放出しまくって準備体操をする折原君にそう言われた。

確かに今のは見苦しかったなと後悔。

「結局ジャージ、誰に借りたの」
「先生が貸してくれた」
「ふーん。先生も生徒のジャージ着るんだ」
「みたいだね」
「んなわけないから。俺知ってるよ。シズちゃんに借りたんでしょ。正確に言えば今知った。最初から予想は出来てたけどさ、君のジャージ見て確信したよ」

ヤバい見られた。
名前の刺繍見られたよ。
これはもう隠せない。

「俺にあんま見せないでくれない?目にちらつくだけでイライラするから。ほんと不快」

この時臨也は少し引っ掛かる事があった。
アイツの名前を見てイライラしているのもあるが、それ以上に何か…

いや、そんなはずはない。
誰か一人だけを好きになるとか、そういった感情はないのだ。
それに彼女に出会って一ヶ月も無い。
更に、彼女に惹かれる可能性など皆無なのだ。

と。

ああアレだ。
引っ掛かる事と言えば。

「名前いつの間にそんなシズちゃんと仲良くなったのさ」
「仲良いって言うのかな…あっちはどう思ってるか知らないし…」
「君がどれだけシズちゃんと仲良いか知らないけど俺の前でそいつの名前出さないでよね。名前聞くだけで嫌なんだから」
「はいはい」

折原君は私が着ているジャージを一瞥しては、「はぁ…」と溜め息を漏らした。

( 関係者以外、立ち入り禁止 )



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