夕食前。
三人兄妹からの要望により、夕食のメニューはカレーとなった。
そしてそのカレーを作り終えた私は只今脱衣所で一息吐いているところだ。
私と九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんとでリビングで遊んでいる間、折原君がお風呂の準備をしてくれていたようで、私は先に入浴とさせてもらった。

折原君が「先に入ってきていいよ」なんて言ってくれたので九瑠璃ちゃん達に「いいの?」と聞いたら「一緒に入ろう!」と言われたので少し困ったのだが、「お前らあんだけ遊んでもらっといて風呂まで一緒に入る気か」と折原君が制止してくれたので何とか助かった。
一緒に入ってもよかったんだけど、さっき思いもよらぬ相当凄い遊びをして、その後高校生活はどんなものかと色々な意味でデンジャラスな質問攻めにもあったことから、お風呂ではどんなことになってしまうんだろうと大体予想は出来ている。

ちなみに、私が二人と遊んでいた時の折原君と言えば、少し遠い位置にあるソファーから私たちを眺めているばかりで、その後の質問コーナーでは返答に困っている私が折原君に「助けてくれ」とあれだけ目で訴えていたというのにやはり相も変わらず折原君は笑いながら私を見ていた。

…ん?
あ、そう言えば今日折原君が携帯弄くってるとこ一度も見てないや。
実は私も折原君の家に来てからは一度も携帯の画面を見ていない。電源すらオフである。
というよりはオフにした、の方が正しいのかな。
やっぱりせっかく友だちの家に来たわけだから、携帯を使うのには気が引ける。
だからこうやって一人の時に携帯をチェックしようと思う。

私は早速携帯の電源をオンにして着信がないかを確認した。
お、着信一件だって。誰からだろう。
着信履歴を確認してみると静雄からだった。
このまま無視するのも悪いので、電話してみよう。
するんだとしたら今しかないし。

そして通話ボタンを押した。
するとすぐにコール音が途絶え、何秒もしないうちに静雄の声が電話の先から聞こえてきた。

「もしもし静雄?さっきは電話出られなくてごめんね。どうしたの?」
「よぉ名前か。この前の犬、どうなった?」
「あぁそのことね。大丈夫。飼ってくれるかもしれない人がいるって言ったじゃん?予想通りその人が飼ってくれたんだ。凄く喜んでた。昨日も散歩してるとこ見たしきっとあの犬も幸せになれるよ」
「そっか、よかった。あー…それとよ、夏休み、空いてる日とかってあるか?」
「ほとんどフリーなんですよね。むしろ空いてる日しかない、みたいな。あはは…って笑えなよね」
「んなこたねーよ。あ、いや俺もさ、暇な時が多いからよ。もし名前がよければ遊びに行かねぇか?」
「遊びに!?行きます行きます勿論です!ご一緒させていただきます!」
「よかった。じゃあ八月の一日とかどうだ?」
「八月一日ね!了解しました」
「じゃ、またな」
「うん、ばいばい」

こうして、比較的短めな通話を終了した。
携帯のスケジュール帳の八月一日に予定を追加し、再び携帯の電源を落とす。
それから服を脱いで、私はお風呂に入った。



♂♀



人によって対応の仕方が違うなんてごく当たり前のことで、事実俺だってそうである。
だから俺が名前と取り巻きの女の子達とでは対応の仕方が違うのもそれのいい例だ。

だけどこれは対応なんて領域じゃない。
相手に対する印象と相手へ抱いている気持ちの違いなんじゃないか。
名前の、俺とシズちゃんに対する返事の仕方に多少の違いがあることは知っていた。
だけどまさか、ここまでとは。

「遊びに!?行きます行きます勿論です!ご一緒させていただきます!」

遊びの誘いが来たらしい名前はとても嬉しそうに返事をしていた。
そう返事をしている名前の笑顔が目に浮かぶ。
それがまた俺をより一層苛立たせた。

電話の相手がシズちゃんだってことは知っている。
彼女が最初にそう言っていた。
俺が偶然名前にバスタオルを持ってきて脱衣所の前で持ってきたことを知らせようと立ち止まった時のことだ。

何だろう。
「良い方向」に事は進んでいるはずなのに、そっちに進めば進む程俺にとって面白くなくなっている気がするんだ。

でも俺は確信している。
きっと最後は良い結果を残して「終わる」はずだって。
そうならないのなら、俺が自力でそうするまでだし。

「わーイザ兄ー!もしかして覗き見しようとしてたの!?」

うわ、何でこいつらこっち来たんだよ。
その上こんなタイミングで。

「それはお前らだろ」
「私達は女だもん。だから何も問題ないよ」
「変態もいいところだよほんとに」
「兄、嫌…(イザ兄に、言われたくない)」
「それよりイザ兄さ、なんか珍しくぼーっとしてたよ?」
「俺にだってそんな時くらいあるよ」
「でも、珍しいよね」

そう言って二人は手を繋ぎながらリビングへと戻って行った。

たしかにぼーっとしてるのは珍しいかもしれない。
しかもどうやら無意識のうちにだったらしい。

名前のせいだよ、これ。

「名前ー」
「わっ!折原君!?」
「平気平気。覗きに来たわけじゃないから。それに君の裸なんて興味ないし」
「失礼ですね。ま、一安心ですけど」
「タオルここに置いとくから」
「はーい。ありがとう」
「もし一時間経っても出てこなかったら逆上せたってことで助けに入るから安心しな」
「おお、それは逆に安心できないね。あと三十分くらいしたら出るよ」
「そう言えば九瑠璃と舞流がさー、寝る前に名前と遊ぶとかなんとかあっちで言ってるけど」
「いいよって言っておいてー」
「はいはい」

そう言い残し俺はリビングへ戻った。

「ねぇねぇクル姉!名前お姉ちゃんにパジャマ何着てもらう?」
「此(これとか)」
「あー、いいかも!やっぱネグリジェだよねー!イザ兄はどう思う?これ名前お姉ちゃんに着てもらいたいんだけど!」
「名前なら似合うだろうね」
「そうだよねー。よし、これにしよう!」

きっと名前はパジャマくらい持参してるだろうけど。
俺だって男なんだ。
あれ着てる名前は見てみたいね。

そう心中で呟きテレビに視線を移した。



♂♀



「待って待って!これは流石に着れないよ!ぜっったい似合わないし!てか九瑠璃ちゃんも舞流ちゃんも何でこんなネグリジェ持ってるの!?」
「お小遣いで買ったのー!お願い着てよー!じゃないと夜襲っちゃうよー?」

え、襲っちゃうってまだ小さい子がそんなこと言ってていいのか…!

「そんな冗談…」
「そいつらならほんとに襲いかねないよ」
「ね、襲われるのと今からこれ着るの、どっちがいい?私達はどっちでもいいよ!」
「分かりました!それ着ます!今すぐ着ます!」
「物分かりのいい子は好きだよ」
「え、折原君はどっちの味方なの!?」
「今回の件については舞流達に同意するね」
「やっぱりイザ兄も名前お姉ちゃんがネグリジェ着てるとこ見たいんだー!」
「うん」

何言ってんの折原君…!!

「顔、赤…(顔赤い)」
「あはは、ほんとだー!イザ兄にほんとのこと言われて照れてるんだねー!」
「違う違うそんなことないよ!」

いやまあ確かにそうだけど。
それでも私は全力否定して(きっと信じてもらえてないだろうけど)ネグリジェを舞流ちゃんから受け取り、脱衣所へと足早に向かって行った。



「着替え…終わりました…」

重い足をゆっくりと動かし何分間かかけてようやく脱衣所からリビングへと辿り着いた。
三人の目がいっせいにこちらへ集中する。

「可愛いー!凄く似合ってるよー!」
「愛…(かわいい)」
「ど、どうも…ありがとう」

相当この格好は恥ずかしいが、そんなことを知ってか知らずか、誰かがシャッター音を鳴らした。
嘘!?
この格好を写真撮影とか本当にやめていただきたい!!
今そんなことできるのは携帯を持ってる折原君しかいないし!

「消して消して!今の消して!」
「ごめん、いつにもなく名前が可愛くてつい保存しちゃった」
「いつにもなくって酷…ってかじゃあフォルダから削除してお願いします折原様!」
「どうせなら臨也って呼んでよ。そうしたら消してあげる」
「いざ…いざ…や」
「俺はいざいざやじゃないんだけどなぁ」
「いざ…や」
「それを繋げて言ってごらん。じゃないと消さないよ」
「臨也」
「よく出来ました。だから消してあげる。…あ、間違えてSDカードにコピーしちゃった」
「えええええ!わざとでしょ絶対わざとでしょ!」
「永久保存ってね」

なんだこのサディストは。
仕方ない、折原君の寝顔撮ってやる絶対に撮ってやる。
部屋忍び込むから、その時はよろしく。
倍返しですよ倍返し。

「あ、別にネットにアップしたり他の人に流したりしないから心配しないで。俺が独り占めするからさ」
「折原君に独り占めされようが流されようがどのみち私は…」

ああ泣きたい。
だから私が折原君の寝顔撮ることくらいしたって罸はあたらないよね、うん。


今日この日、折原君が携帯を使っているのを初めて見たのは、たった今の不意打ち撮影ででした。

( 永久不滅?いいえ永久保存です )



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