「折原君の部屋綺麗なんだね〜」

凄い、感心した。
私の部屋よりシンプルにできてるし、何よりきちんと片付いてる。
わりとセンスいいのかも。
大人になって自分の家買うようになったらきっと凄いんだろうなぁ、折原君。

「そんな珍しいものは無いと思うけど。ってかこれくらい普通じゃない?」
「いえ、少なくとも私の部屋よりは綺麗です」
「へぇ、それは興味深い。今度写メ送ってよ」
「プライベートだよ、嫌だ」
「いいじゃん、部屋の写真くらい。変な写真要求してるわけじゃないんだから。それとも、何?もっと「部屋の写真なら送ってあげてもいいよ」

折原君の爽やかな笑顔に騙されてはいけない。
この表情こそが一番怖いんだよね、私にとっては。

「ねぇねぇ、アルバムとかないの?」
「あっても見せるわけないじゃん」
「なーんだ。無いんだ、つまんないの。小さい頃とかさ、中学の時とか。あ、卒アルでもいいかも!」
「絶対に見せないから」

そう言って折原君はベッドに横になった。
最初から折原君が勉強なんてする気はないと分かってはいたが、実際よく考えてみると私は何をしに折原君の部屋に来たのか不明である。

「何か用があって私ここに連れて来られたんじゃないの?」
「いいや?特に用事は無いけど。…あ。じゃあさ、ここ座って」

満面の笑みを浮かべてはベッドをポンポンと叩いた。
そこに座れと言っているのか、折原君は。

「はい。座ったけど」
「何の躊躇もなく座るんだね」
「だって相手は折原君だし」
「ふーん」

鼻を鳴らし、名前の太股の上に臨也は軽く手を乗せた。

「冗談だよ冗談。反応を試してみただけだから」

シーツの擦れる音と共に名前は臨也の手から離れて行く。
それを見て臨也は、顔を赤く染めた名前の横顔を見ながら軽く笑った。

「えー、特に用が無いなら九瑠璃ちゃん達の所へ「名前さ、シズちゃんのこと好きなの?」

いきなり問われたことに驚いた。
反射的ではあるが、彼の顔を見るといつにもなく真剣であり、臨也から名前は目を反らせなくなってしまい困惑する。

「好きだよ、そりゃ。でも友達的に好きだから。ラブじゃなくてライクだから」
「一緒にいて楽しい?」
「うん」
「君の気持ちが全く理解できないなぁ」
「いや、理解してもらえなくていいし」
「じゃあさ、この前会った時シズちゃんと何してたの?」

折原君は上半身だけを起き上がらせて私にそんな質問をしてきた。
何て答えたらいいんだろう。
ただ喫茶店行ってパフェ食べてその後色々街中歩いてて…
それを言えばいいのかな。

「折原君と会ったあの喫茶店でパフェ食べて、後は適当に街中歩いてて…そんな感じかな」
「デートしたんだ」
「デートじゃないよ。静雄が私に付き合ってくれてただけかもしれないじゃん。私は楽しかったけど」

そう答えると、折原君の眉間に皺が寄った。
何か悪いこと言いましたかねぇ。

「静雄って君の口から出る度にムカつくよ」
「そうですか。そう言えば折原君さ、この前喫茶店で女の子に一万円札払ってたじゃん。その瞬間を偶々目撃してしまいまして。凄く驚きました。つい驚き過ぎて何秒間か固まりましたね、ええ」

何とか話題を変えられないかと思い浮かんだのがこの話。
きっと成功するはず。だと思う。
これ以上さっきの話をしていたら折原君のイライラメーターが上がりそうなので。

「あれくらい普通だから。君と一緒に食事してたあの怪物は払ってくれなかったの?」
「前ジャージ貸してくれたから。そのお礼にと思って私が払ったけど」
「たかがジャージ貸しただけで名前に奢らせたの?」
「奢ったって言ってもお礼にだから。静雄も別にいいって言ってくれてたし。そう言われると余計お礼したくなるんだよね」
「俺だったら絶対奢ってあげるけどね」

折原君は本当に負けず嫌いでした。
前に折原君は負けず嫌いだって言ったけど大方当たってるみたいだ。

「何時頃まで遊んでたわけ?」
「夕方の六時くらいまでかな。てか折原君こんなこと聞いてどうするの?」
「さぁ?」
「折原君狡いよ。アンフェアじゃない?一つくらい質問に答えてほしいんだけど」
「強いて言うなら現状把握。これでいい?」
「全く意味が分からないんだけどな」
「だろうね」

意味ありげな折原君の笑みとは対に名前は悲しげな表情を見せた。

せっかく何か折原君のこと分かるかなとか、少しは仲良くなれるかなとか、不安が混じりつつも期待はいくらかあったのに。
これじゃあ距離なんて縮まりそうにない。今までと何も変わらないままなんだろうね。
私、何で期待なんかしてたんだろ。

でも正直に言うと、朝緊張してしまうくらいに今日折原君の家に泊まることを楽しみにしてた。

昨日の夜電話が着た時は凄く嬉しかった。
一人で寂しいのには慣れたけど、あの時間に電話してくれるのは折原君くらいだし。だから折原君は友達として大事にしなくちゃなと、そう思った。
夜が遅いということもあって誰かの声が聞けてほっとする。
まぁ折原君はそんなつもりで電話なんてしてきてないだろうけど。

三十分くらい他愛ない話をして電話を切る。
最後にお休みって言って電話を切ったらそのまま眠りに就く。
そして朝起きたら緊張しっぱなしだった。
でも案外折原君の顔見たらいつの間にか緊張なんて解けてて、気付いたら今こんな感じで落ち込んでる。

「じゃあ私、そろそろ九瑠璃ちゃん達と遊んで来るよ」
「無理して笑おうとしてる人間以上に見苦しいものはないね」
「全然無理なんてしてないし」
「それが無理だって言うんだよ。さっきの話、やめよっか」
「……………」

黙り込む名前を見てはぁ、と臨也は溜め息を吐いた。
どうせ頷きたいくせに。

「たまには他人に甘えてみてもいいんじゃない」
「…うん」

折原君なりの気遣いなのか、彼の持ち合わせる優しさなのか。
どちらかなんて分からない。
ただ今は何故か折原君と一緒にいたかったから、彼の言葉に甘えさせてもらった。

引き寄せては突き放し、突き放しては引き寄せて。
折原君はきっとそんな人なんだと思う。

「じゃあ名前から何か話題振って。適当に相槌打つから」
「ちょ、それ無茶振りだよ。しかも適当にって酷いなまったく。折原君が何か話題振ってよ。適当にうんうん頷いてるから」
「君も中々酷いと思うよ」
「いつも余計な時にペラペラペラペラと喋るのにこういう時だけ…」
「何か言った?」
「いえ何も」

そして十二時間ぶりに他愛ない話を二人隣り合わせでしていた。
こうして隣にいる時が、一番自然なのかもしれない。

( きみは笑顔ではぐらかした )



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