夏休みという学生にとって嬉しすぎる長期休暇が始まってからまだ間もない真夏日。
それなりに青春を謳歌している(と思いたいだけかも知れないが)名字名前は、今年の夏休み初めてのお泊まり会に来ていた。
お泊まり会と言っても同じクラスの男子生徒の家に泊まるわけだが、別にそう言う変な意味ではない。相手が相手なだけに尚更。
一人家に居るのも寂しいだろうと同情したのか何だか知らないが、彼に家に来るかと誘われたのでやって来た。

そして自分自身、彼の双子の妹さん達が前から気になっていた。

(いやそれはやっぱ同い年の男の子だし?緊張してますが?だけど妹さん達がいるんなら大丈夫ですよね?つか今更こんなこと言っても仕方ないですよね?)

全て疑問形だが、これは相当自分が緊張しているという証拠なのだ。
右肩に乗せたバッグの取っ手をぎゅっと握り締め、まずは深呼吸。
人の家の前にこんな長い間立ってたの初めてだよ。

ピンポーン。

ワンコール目。
まぁきっと折原君のことだ。これじゃ出ないだろうと二度目のインターホンプッシュを試みた。
が、「はーい!」と元気な明るい声が中から聞こえてきた。
もしやお迎えは妹さん!?
あの声はやっぱ妹さんのはず。
折原君の妹さんってどんな子だろう!

そうウキウキしながら予想していたら折原君家の玄関のドアが開いた。
きっと可愛いんだろうなぁ。

「やぁ久し振り」

ボトン

とバッグを落としそうになった。危ない危ない。

どんな子だろうと目を輝かせていたら、中から出てきたのは他でもない折原君だった。

「久し振りって二日前に学校で会ったじゃん。つか喫茶店で会ったよね。メールも電話も昨日折原君から着たし」
「服、可愛いね」
「服、暑そうだね。てゆかスルーしないでよ」
「部屋の中なら暑くないよ、エアコン付けてるし。黒い服着てても問題無いから。っていうか君こそ褒めた事にはスルーなの?」
「服褒められてもあんまり嬉しくないかな」
「似合ってるんじゃない?」
「今更…」
「それより今日は朝から面白いものを見たよ。四十分くらい前からかな。俺の家の玄関の前で俯きながら立ちっぱなしの女の子がいてね?鞄を握り締めたまま微動だにしないから。まるで好きな人に告白する前の子みたいにね」

何だその勝ち誇ったような顔は。

「俺の部屋の窓からだとよく見えるんだよねー。何を緊張してたのかな?その子何度も震えた手でインターホン押そうとしててさ、結局押せたのは一回っきり」
「折原君、世界は広いわけよ」
「そんなの俺が一番よく知ってるよ」
「世界には一人くらい、たったそんなことで緊張しちゃうようなあがり症の人もいるんだよ」
「少なくとも一人は身近にいるね。そしてまた正反対の性格のやつもいる。あぁ、これだから人間は面白い」
「あっ、もうイザ兄ー!!」

折原君の後ろの方から聞こえてきた女の子の声。

イザ兄って…折原君のこと?

「もー!何で先にお迎え行っちゃうのー!せっかくピンポン鳴った時はーいって出たのに!バカ兄!」
「狡(ずるい)」
「え、もしかしてこの子達が妹さん?」
「そうだよ。ほらお前ら家の中で待ってろ」
「嫌だよそんなの!私達が名前お姉ちゃん案内するんだもん!」
「許…(どうぞ)」

眼鏡をかけた女の子と、ショートカットの女の子に手を引かれたので、取り敢えず家の中にお邪魔させてもらうことにした。

案内されたのはリビングで、「ここに座って!」とテーブルの前の椅子に座るよう促された私は「ありがとう」と座らせてもらうことに。

後から折原君もリビングに入ってきて私の隣の椅子に腰を下ろした。
妹さん達は私達の向かい側にニコニコしながら座っている。

よし、まずは挨拶からいこう。

「えー、初めまして名字」
「名前お姉ちゃんでしょ!」
「何で知ってるの?って顔してるね。俺が教えたんだよ。さっきだって名前の名前呼んでたじゃん。その時に気付くべきだったんじゃない」
「なんか私のこと変な風に言ってそうで不安しかないんですけど」
「心配ないよ。馬鹿で孤独で寂しいやつとしか言ってないから」
「……………」

そう言う折原君の顔はいつも以上に清々しく、且つどこか嬉しそうだった。

「で、こっちが九瑠璃。そっちが舞流」
「初…(初めまして)」
「初めましてー!」
「さ、自己紹介はこれくらいにして。何か食べる?アイスとかあるけど」
「い、いえ…人様の家の「遠慮しなくていいから。何がいい?」

そう言って折原君が冷凍庫を開けるとアイスが…やばい、この家やばい…ハーゲンダッツしか入ってないよ。

しかも大量。

「本当にいただいてもよろしいんでしょうか」
「何改まっちゃってんの。いいってば」

きっと名前は人に甘えるということを余り知らないのだろうと、何の感情も見せることなくただ臨也は彼女を一瞥し、再び冷蔵庫に目をやる。

「昨日イザ兄がアイスいっぱい買いに行ってたんだよー!名前お姉ちゃんのために!」
「多(たくさん)、買…(買ってた)」
「君ならどうせこれくらいの量なんてすぐに食べきっちゃうんじゃないかな?一応これだけ買ってきたけど」
「それでこんなに沢山買ってきてくれたの…嬉しいけど折原君が考える私のイメージ像ってどんななのよ。極度の甘党で大食いみたいな?」
「そんなとこかな。強ち間違いじゃないでしょ」
「私の折原君に対するイメージと大して変わらないね」

少々意地悪っぽく言ってみたのだが、予測外れの模様。
大体、意地悪なのは折原臨也の方なのだ。
こっちが反撃してもそれをまともに喰らわない。
寧ろ返り討ちにされてしまう。
それは今も例外ではなかった。

「何それ仕返しのつもり?本当はそんなイメージ無いでしょ。でさ、何味がいい?」
「ストロベリーか抹茶で」
「はい」
「ありが…」

手渡されたアイスのパッケージを見てみるとクッキーアンドクリームと書いてあった。
地味な嫌がらせには気付いたが、これも好きだしもらったものなんだから食べよう。

「ありがとう」
「お前らは?」
「何でもいいよ」
「同…(私も)」

そして二人にアイスを手渡して臨也も席に着く。
すると、舞流がある話を持ち出した。

「ねぇね!名前お姉ちゃんはイザ兄とどんな関係なの?」
「接点ができたのは偶々同じクラスで隣の席だったからなんだけど…簡潔に言うとただの使い走りかな」
「使い走り?」
「折原君のお昼ご飯調達係りなんだよね、私」
「えーっ!何それイザ兄サイテー!」
「酷(ひどい…)」

スプーンの先を臨也に向け、「女の子にそれは酷いよ!」と抗議する舞流。

「いいじゃん。やめたきゃやめてもいいし」
「え、じゃあやめてもいい?」
「そんなの許さないから」
「言ってることおかしくない?」

そう言った名前を無視した臨也は、「これ食べ終わったら俺達勉強するから」と九瑠璃と舞流に告げた。

「二人で仲良くお勉強だー。イザ兄羨ましい。私も名前お姉ちゃんと遊びたい」
「じゃあ…勉強終わったら!」
「嬉(ありがとう)」
「こいつらの遊びは危ない系だよ?」
「そんなことないもん。イザ兄だって考えが危ないじゃん」
「それは私もそう思う」
「何とでもいいなよ。俺のは人を愛しているが故の行動だから」

そう言い臨也は最後の一口であろうアイスを口に放り込んでは、隣に座る名前の手を取りリビングを後にした。

「折原君が食べ終わってても、私はまだ食べ終わってないんだけど…」

( こんにちは折原さん家 )



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