クリスマスだとかバレンタインデーだとか、そう言った類いの年間行事は今までそれなりに経験してきた。

バレンタインならバレンタインらしくチョコを渡したりクリスマスの日にはプレゼントを交換しあったり。

でもその都度何を渡そうか迷うのは、やっぱり臨也さんに喜んでもらいたいから。
こんな私でも側においてくれて、少なからず大事にしてくれている…のかには首を傾げてしまうけど、とにかくそんな臨也さんにだからこそ悩みに悩む。

段々臨也さんも私の変化に気付いてきたようで、なにか行事があるごとに雑誌を読む時間が極端に増えたり、特集を組んでいるテレビ番組を好んで見たりするのは毎度のことだ。

(とりあえず、ケーキは買おう)

ろうそくは…毎年ちゃんと実年齢分乗せてるから今年もそれでいいや。
永遠の21才とか言うから、こんなとき変に困る。

(他は……)

うーん、問題はプレゼントの方なんだけど。
クリスマスにネックレスなんて貰っちゃったからなぁ。どうしたらいいんだろう。

服はちょっとなぁ…サイズ違ったら困るし。
シルバーリングとかでもいいかなとか思ったけど現に臨也さん着けてるし。しかもなんだかんだで気に入ってるだろうから…



気付いた頃には、目の前にある大量の雑誌のうちの一つを手にしていた。



♂♀



と言うわけで、名前は朝から絶賛悩み中だ。

俺が今さっき欠伸をしながら起きてリビングに向かうと、必死になって堅い表情をする彼女が雑誌のページをペラペラと捲っていた。
時計を見ると、時刻は7時30分。
いつからこんなことしてるんだか。

まぁ大体何に悩んでいるのかくらいは分かる。
毎年ゴールデンウィーク直前あたりから名前は悩み出すんだよね。
別に自分の誕生日だとか意識してるわけじゃないんだけど、そういう名前を見てると「ああもうそういう時期か」って嫌でも思い出す。
多分そんな彼女がいなければ俺は自分の誕生日なんて忘れてるんだろうね。


おはようと声を掛けてもなにも返事が返ってこなかったので、名前は俺がいることに気が付いてないようだ。
完全に一人の世界に入っている。

まぁいいやと一瞥してテーブルに着くと朝食が既に用意されていた。
特に何かあるわけじゃない時は一緒に食べるという暗黙のルールというか知らない間にできていた意識みたいなものがあるから、名前がこっちの世界に帰ってくるのを気長に待つことにしよう。

俺は名前が淹れたであろうコーヒーに口をつけて、少しの間こちらから見える彼女の真剣な横顔を見ていた。
時折眉を潜めたり首を振ったり、感情が表に出る名前は見ていて面白い。

あぁ、後ろからおどかしてみるのもいいかもしれない。よし、やろう。

「わっ!?えっ、臨也さん!?」

軽く両手をポンと肩に乗せただけなのにこの驚き方。
バカだなぁと言うと「ある意味バカにバカって言われたくない」と名前は頬を膨らませた。
たまに出るタメ語とか、別に気にならないしむしろ素が出てそっちの方が好きだったりもする。
“たまに”ってのがいい。ここ重要。

「プレゼントねぇ」
「見ないでください」
「蒸気が出るアイマスクとかが良いかなぁ」
「仕事で目が疲れるからですか?」
「うん、そういうこと」
「そういうことなんですね」

再び本気で悩み始めた名前にデコピンをした。
デコピンなんて妹たちにしたとき以来だ。

「いいよ、プレゼントなんて」
「私だって嫌々あげるわけじゃないんですから。一先ず考えさせてください。今から東口行ってきます」
「今行ったってどこも店開いてないって」
「えっ、今何時ですか?」
「まだ8時前だけど」
「そうなんですか!?てっきりもうお昼前かと…」
「君何時からここで悩んでたの」
「分かりません。でもテレビつけたらまだニュースやってませんでした」
「凄く早起きしたんだね」
「私五月病にはかからないみたいですね」
「みたいだね」
「臨也さん、そろそろご飯食べましょうか」
「うん、流石にお腹空いた」

テーブルに移動し、作られていた朝食を電子レンジで温める。
温め完了の合図が鳴って、湯気を出している料理を席へと運んだ。

「いただきます」

そう言って箸を口に運ぶ名前の左手は、先ほど彼女が読んでいた雑誌を掴んでいた。



♂♀



名前が東口に出掛けて早二時間。
きっと街中でも色々と悩んでるんだろうね。

一つだけ謎だったのは、名前が出掛ける直前に「前にクリスマスの時に臨也さんがくれたネックレス、あれどこのお店で買いましたか?」と聞かれたことだ。
一体何を買って来る気なんだろう彼女は。

まぁ何を買ってきても拒みはしないけどね。
変な物を買ってこなければ。

…いや、その可能性も否定出来ないか。

うーんと仕事なんかそっちのけで悩み始める。
俺もほんと名前には踊らされてるよねぇ、彼女無自覚だけど。

頬杖を突きながら色々なことを考えていると、突然携帯が鳴り響く。
ディスプレイを見ると、岸谷新羅と名前が表示されていた。

「あーもしもし臨也?」
「なに」
「誕生日おめでとー!」
「はいどーも。つかそれだけ?」
「まぁそれ以上でもそれ以下でもないというか…名前ちゃんがね……この続き、聞きたい?」
「良いからさっさと言いなよ」
「聞きたい?」
「だから早く言いなよ」
「聞きたい?」
「聞きたいから聞いてんだろ早く言え」
「あーもう分かった、分かったよ仕方ないなぁ。ほんと臨也は…名前ちゃんがね、俺に何度も電話してくるんだよ」
「…は?」
「怒ってる?」
「いや、何で?」
「君にあんなに尽くしてくれる部下世界中どこ探しても他にいないよ?」
「ごめん、意味分からない。話繋がってないんだけど」
「大切にしてあげなきゃねぇ、ほんとに。良い子だよ」
「これでも一応充分大切にしてあげてるつもりだけど」
「それは本人に言っ」

話の途中で、俺は通話を切った。
これ以上話してても無駄なだけだ。

兎に角今は、名前が帰ってくるのを気長に待とう。



♂♀



「臨也さん、ただいまー!」
「おかえり、随分と元気じゃん」
「はい!見つかったんです!」
「なにが?」
「ほら、これ」

名前に手渡された物を手に取り丁寧にラッピングされている包装紙を外してみた。

「えっ、と……マジで?」

中に入っていたのは、蒸気が出るホットアイマスクのセットだった。

…本当に買ってきたんだね、流石何でも言うことを聞ける部下だよ。

たまに反抗的だけど、こういうところは変に素直らしい。

「今日から疲れた日は使ってください」
「そうだね、そうさせてもらうよ」

そう言って俺は仕事用デスクにそれを置く。
すると名前は、「臨也さんの携帯貸してください」と言ってきた。
特に名前に見られちゃいけないものなんてないしいいかと思い、「はい」と言って渡したら、何やら俺に隠れて作業し始めた。

しばらくして彼女は俺の前へやって来て、「はいこれ」と携帯を差し出す。
見てみると、どこか見覚えのある携帯ストラップが付いていた。

「臨也さんがくれたシルバーネックレスとお揃いのストラップなんです。これなら臨也さんも付けてくれるかなって思って、見つけてすぐ買っちゃいました」

あぁ、だから俺にあのネックレスを買った店のことを聞いてきたのか。
初めから同じ店で買う予定だったんだろうねぇ、きっと。

「大事にしてくださいよ?」
「大事にするよ」
「それならよろしい」
「新羅に言われたよ、もう少し思ったことは本人に言った方がいいって」
「え?何をですか?」
「もう言ったから。二度も同じこと言わないよ」
「その言い方余計気になるんですけど」

ジーッとこっちを見詰めてくる名前が微笑ましく見えた。

面倒だから、二度も同じこと言ってやらないよ。
遠回しにだけどちゃんと言うこと言った俺に拍手かな。



…今になって思うことだけど、もしかしたらクリスマスにあれをプレゼントしたのは正解だったのかもしれない。

取り敢えず、これと名前は大事にしよう。




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