12月25日。
昨日はクリスマスイブで今日はクリスマス。

外はイルミネーションやクリスマスソングや大きなツリーなんかで飾り付けられていて正にクリスマス!って感じの雰囲気を出しているのに、私達が住むこの部屋には全く、0と言って言い程それを感じさせる空気がない。
いやまぁ、確かに普段通りに過ごすとは言いましたけど。

あ、でも。
私が今まで臨也さんに内緒にしてきた“あれ”だけは唯一クリスマスっぽさを感じさせるかも。

クリスマススペシャルなんて名目で特集を組んでいるテレビ番組を、私はソファーで寛ぎながらぼーっと見ていた。

「臨也さんはクリスマスとかって知ってます?」
「舐めてんの?」
「いえ、そんなんじゃないんですけど…ただ臨也さんでもそう言ったようなイベントを知ってるのかな、みたいな。というか興味あるのかな、みたいな」
「じゃあハロウィンやバレンタインなんかの日も知ってる?って俺は聞かれるんだ。てか、何年か前の年の今日にも同じようなこと聞かれたんだけど」
「そうでしたっけ…?」
「君が覚えてなくて俺が覚えてるんじゃねぇ。でも珍しいじゃん。名前が自分からそんなイベントの話するなんて」
「そんなことないですよ?ちゃんとバレンタインの日にだって自主的にチョコ作って毎年臨也さんに渡してますし。勿論感謝の気持ちオンリーで」

そう言うと臨也さんは「あぁ、そう言えばそうだったねぇ」と何の感情も籠っていない言葉を口にした。
ってかさっきからカタカタカタカタ鳴るキーボードの音の方が臨也さんの声より耳に残るんですが。
こりゃ相当チャットに夢中なんだな臨也さん。

少しは微笑みながら言うとか、嬉しそうに言うとか、喜んでるなぁって見て分かるようなものがあってもいいのに。

ソファーに体育座りする私は、「はぁ」と軽く溜め息を吐いて天井を見上げた。
すると突然冷たくひんやりしたものが頬に当てられる。

「もう、なんですか?」
「コーラ飲む?」
「いりません。寒いです」
「寒い?暖房の温度上げよっか?」
「あ、いえ。そうじゃなくって…コーラ冷たいですし。今はそんな気分じゃないんです」
「んなこと分かってるよ。ちょっとからかうつもりで言ってみただけ。拗ねてるの?めちゃくちゃ顔に出てるよ。ついでに言うと言葉にも」
「そうですかそうですか」

ふんっ、と臨也さんから目を反らした。

すると彼はキッチンに向かい冷蔵庫から何かを取り出してきて、また私の座るソファーの方へ戻ってきた。

「コーラは飲まないんだよね。じゃ、こっちは?」

ぺたり。
また左頬に冷たい何かがくっ付いた。
ちらっと横目で見てみると、臨也さん、今度はキンキンに冷えた缶ビールをにやりと笑みを浮かべてくっ付けてきた。

「のーみーまーせーんっ」
「ん?どうして?」
「臨也さん、私がビール苦手なの知ってるのに薦めてくるなんて質悪いですよ」
「俺が質悪いなんてそんな今さら」

ははっ、と彼は笑い私の隣に腰を下ろす。

そんな彼の横顔を一瞥しては、はぁっと溜め息を吐き再び視線をテレビに向けると、「100人に聞いた恋人から貰いたいプレゼントランキング」なんてコーナーに変わっていた。
えっ、と…
何でこうバッドタイミングな時に臨也さんはこっち来るんですか。

私の隣に腰を下ろした臨也さんは、ソファーの背もたれに右腕を預け、コーヒーを飲みながら相変わらずの表情でテレビを見始めた。

「あれ?臨也さん、チャットの方はどうしたんですか?」

焦りの余り、唯一閃いた逃避方法がこれだった。
だって恋人から貰いたいプレゼントって…いや、別に変に意識してるわけじゃないんですよ。

「名前、何か欲しい物あるの?」
「え、そんないきなり…」
「無いんだ」
「ま、まぁ。あれ欲しいなぁとかこれ欲しいなぁとか、そう言うのはありませんね」
「君ってあんまり物欲無いよね。今思えば、あれ買ってほしいとか言われたこと無い気がする」

それは臨也さんが不自由なく生活させてくれるからですよ、そう言うと彼はふっと笑い缶ビールを飲んだ。

「まぁ、俺だって不自由させたくはないからね」

そう言われ、少し嬉しくなったのは内緒です。

「あ、そうそう!臨也さんにクリスマスプレゼントがあるんです!」
「へぇ。どうしたの、急に」
「前に秘密だって言って臨也さんに何をしてたか正体を教えなかったことがあるじゃないですか」
「あぁ、あれって今日のためのだったんだ」
「ま、まぁ、そうなりますね」

これじゃあ私が前から臨也さんにクリスマスプレゼントを渡すつもりでいたみたいじゃないですか。
いや確かにそうなんだけども。

「前にチャットで言ってたよね。クリスマス、何かあればと考えてはいるって。それ、やっぱり俺絡みのことだったんだ。ってことはー、そのあとにあれだけいいえいいえ自己主張してたのは照れ隠しか何か?」

ビール片手に意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見てくる臨也さんに思わず言葉が詰まる。

臨也さんは気付いてるはずなのにそれを態々疑問形で尋ねてきてこっちに答えを求めるからなぁ、全く。

よし、ここは逃げてやろう。

「ちょっと取りに行ってきますね」

ソファーから勢い良く立ち上がり、私は自室へ駆けて行く。

私が走り出した時、臨也さんがふふっ、と軽く笑っていたような気がしたが、それは無かったことにしよう。





「それで……はい、これ。臨也さんに」

自室から戻り、ソファーで座る彼の前に立ち、緊張しきって中々思うように動いてくれない腕は辛うじて臨也さんにプレゼントを手渡せるくらいのところまで伸びてくれた。
手がぶるぶる震えているのは、臨也さんから見てもすぐ分かる。

しかしそのことについては何も触れずにプレゼントを受け取る臨也さんに、一先ず心を落ち着かせることができた。
これで受け取ってくれなかったらどうしようかと。

「態々ラッピングまでしたの?」
「はい…。その方がプレゼントっぽいかな、って」
「それはそれは、ご苦労様」

「中見ていい?」臨也さんにそう聞かれたので、私はブンブンと首を大きく縦に振った。

臨也さんはシュルシュルとリボンをほどいていき、包装紙から中身を出す。
その中身を見て何一つ表情を変えることもなく、何の言葉を口にするわけでもない臨也さんに私の頭は真っ白になった。
失敗だったかな。
臨也さんが嫌がるような物を作ったはずじゃなかったんだけど、な。

「手編み?」
「……はい」
「ふーん」

臨也さんにバレないように寝る時間を少しずつ割いてちょっとずつちょっとずつ毎日編んでいったマフラー。
流石に、こんな反応だとちょっと泣けてくる。
せめてありがとって言ってほしくて、ただそれだけのために、作ったのに。
喜んでもらおうと思ってただけなのに。

「受け取っておくよ」

そう言われた時、何か言葉を言い欠けた。
「う、」私はそう言い欠けていたようで、臨也さんに「どうしたの?」と聞き返された私は、震える口をなんとか開き小さな声でこう問う。
俯いてたし、前髪で隠れてたから、泣いてしまったことは流石にバレてないよね…

「あの…嬉しくないですか?」
「そうに見える?」
「……はい」
「じゃあそうなんじゃない?」

先程までとは違う、いきなりの冷徹な臨也さんの空気にやりきれなさを覚えた。

この場から、逃げたい。

そう思っているのにこういう時に限って動かなくなる足に視線を落とした。

「冗談」
「…………」
「冗談だってば。嬉しくないって言ったら嘘になる」
「……本当、ですか…?」
「ほんとだよ。手編みだって聞いて、尚更ね」

そう言って微笑む臨也さんは、世界一ズルいと思います。
さっきとは別の、違った意味で泣けてくるじゃないですか。

「嬉しい」とははっきり伝えてくれなかったけど、今はそれでもよかった。
凄く嬉しい。
正直、今年で一番嬉しかったことなんじゃないかなと思えるくらいに。

「質の悪い冗談は、やめてくださいよ。…でも、嬉しかった、臨也さんに喜んでもらえて」

微笑みながらそう口にし、私は臨也さんの隣に腰を下ろした。



♂♀



翌朝、12月26日。
昨日あのまま臨也さんとテレビを見ていたらいつの間にか私は眠っていたようで、朝起きてみたら自分の部屋のベッドの上だった。
どうやら臨也さんがここまで運んでくれたらしい。

(お礼言わなきゃ…)

そう思い上半身を起こすと、サイドテーブルに白い小さめな箱が置いてあった。

(あれ?私こんな物置いてたっけ?)

身に覚えはないのだが、自分が忘れているだけかもしれない。

気になったので取り敢えず中身を見て確認してみた。

え…

驚きの余り手に持っていた箱を落としそうになる。


そこには、小さな手のひらサイズの一枚の紙と、シルバーネックレスが入っていた。

何て書いてあるんだろうと、白い紙を手に取る。
そこには、メリークリスマスと、そう一言だけ書かれていた。

(臨也さん……)

誰からの物だかなんてすぐに分かる。
こんなの臨也さんに決まってる。
そりゃ、臨也さんと私しか住んでないからそんなことは当たり前だけど。
でも、見慣れた上司の文字が何よりの証拠だった。
もう何回も何十回も何百回も見てきた字だもん。間違えるわけない。

ぽたりと、不意に涙が落ちてきた。
泣いたこと、臨也さんに知られたくないな。
顔を洗ったらもう一度部屋に戻って来て落ち着くまで寝たフリでもしておこう。

それで起きたら真っ先に臨也さんのところに行って、「もうクリスマスは終わっちゃいましたよ」って言いに行こうかな。

まだ照れ臭いから本人には言えないけど、私臨也さんが上司で本当によかった。
二人三脚には程遠くて、いつも臨也さんの背中見て追い掛けてるだけなんですけどね。
それでも少し立ち止まって、たまに距離が縮まるまで待ってくれる臨也さんが大好きなんですよ。


カーテンを開けると窓ガラスが曇っていて、付いている水滴が太陽の光で煌めいた。




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