*裏とはかなりというか超かけ離れてますが、少し色気要素あります。















故意にやられてるわけじゃないからこそ、驚くんですよ。

臨也さんなら何時も意図的に何か仕掛けてくるから尚更なんです。

「じゃ、次そこやってくれない?」
「はい」

キッチン、リビング、臨也さんの部屋に自分の部屋。
色々な場所を掃除し終えたが、今はバスルームを掃除している。

今日は前から予定していた大掃除。
臨也さんは、「大掃除なんてしなくても何時も通りでいいから」なんて言ってたけど、やっぱり気分転換にやりたくなったため、私は前から予定していた大掃除をした。
っていうか、最初まで臨也さんずっとパソコンに目がいってたのに、何故か途中から顔を出してきた。
理由は分からないけど、気になるらしい。

「あの、臨也さん」
「何?」
「天井やってもらっていいですか。さっき椅子持ってきて乗りながらやったんですけど…手が届かなくて。臨也さんの身長なら大丈夫だと思うんですよ」
「じゃあ天井は掃除しなくていいよ」
「確か脚立ありましたよね。何処にありましたっけ?」
「そこまでしてやりたいんだ…いいよ、天井くらいならやってあげても」

貸して、と掌を私に向けてきた臨也さん。
掃除用スポンジを催促しているようだ。

「別にいいですよ、やれますし」
「脚立が倒れたりしたらどうすんのさ。風呂場で転倒して大怪我だよ?入院生活をしたいなら話しは別だけど」
「それは嫌ですね。臨也さんだって余計一人ぼっちで寂しくなると思いますし。ここは臨也さんに任せます」
「君も随分成長したよね…良い意味でも悪い意味でも」

苦笑いしながら腕捲りをし、置いてあった椅子の上に立って臨也さんはスポンジで天井を掃除していく。
その間、シャワーや水道などの水回り、浴槽を洗剤をつけて洗っていく私。
同時に二つのことをしていくわけだから、当然終わるのも早い。

私は下から天井を掃除している臨也さんを見上げた。
普段見ることの出来ない光景に頬が緩む。

「さ、天井は終わったよ」

そう言って臨也さんが椅子から降り、泡だらけの床に足をついたその時。

鈍い音が響くと同時に私の視界は一変した。
ヤバイ、頭打ったかも。
そう思ったが、そんなことはなかったようだ。

「えーっと、臨也さん」
「今のは事故だから」
「分かってます。そんなことは良いんです。それより手、大丈夫ですか?」
「結構痛いかな」

そう、臨也さんが足を滑らした反動を私も喰らってしまい…まぁ、その、押し倒されたと言うわけで…

しかし意図的ではないから緊張しない。

…訳がない。
意図的じゃないからこそ、この臨也さんの吐息が掛かるくらい顔が至近距離にあるという事実に酷く緊張してしまった。
自分でも顔が熱くなっていることに気付いた時は既に頭の中は真っ白な状態。

手が痛くないかどうか聞いたのは、咄嗟に臨也さんが私が怪我をしないようにと後頭部を覆ってくれたお陰で思い切り手の甲をぶつけてしまっていたからだ。

「名前は頭大丈夫?怪我は?」
「いえ、私は全然」
「そう。ならよかった」
「臨也さんも滑ったりするんですね」
「俺も人間だからね」
「臨也さんも心配してくれたりするんですね」
「そこまで酷い男じゃないと思うけど」
「臨也さんも…臨也さんも…えぇっと…」
「何」
「…あの臨也さん。そろそろ退いてくれませんか…」

この人わざとなのかと一瞬疑った。
私は緊張を紛らわすために臨也さんに一生懸命話掛けていたのだが、彼はそれに気付いているのかいないのか、一向に退いてくれない。
なので最終的に本音を漏らしたわけなのだ。
これでやっと退いてくれるだろうと思った。思ったのに。

「あーあ、名前の服に泡付いちゃったね」
「別に気にしてませんから」
「脱いだら?」
「後で着替えますのでお構い無く」
「今着替えなよ」
「…冗談も程々にしてください」

そう言い臨也さんを押し返したが、そんな行動は無駄に終わった。
こんな体勢恥ずかしくて堪らない。
どうすれば逃げられるだろうと考えたが、その思考回路は一瞬にして閉ざされた。

「手、ベルトで縛ってみよっか?」

カチャ、とベルトに手を伸ばす臨也さん。
笑顔が物凄く怖いんですけど。
いやほんとに怖い。

「ごめんごめん冗談だよ。流石に今のはやり過ぎた」
「……………」
「君にそんな顔されるほど嫌な事は無いかもね。後味凄く悪いよ。ごめん」
「すみません」
「何で名前が謝るの?」
「何か臨也さんにそんな謝られると…その、何て言うか…察して下さい」

先程までの赤く火照った表情は今では微塵も感じられなかった。
本当に怖がってたんだと痛感させられ更に後味が悪くなった臨也は、「仕方ないな…」と胸中で呟き名前の髪を優しく撫でた。

何時もなら、絶対にしてくれないのに。

「ほら、立ちな」
「ありがとうございます」

臨也さんは覆い被さった状態から身を起こし、私に手を差しのべてくれた。

「先シャワー浴びてきな。泡だらけだよ」
「臨也さんは…」
「俺は後で浴びるから」
「すみません」

そう言うと、臨也さんは何も言わずにバスルームを後にした。

しかしそれからすぐ戻ってきて、「今日新宿の東口で昼食摂ろうよ。何処に行くか適当に決めといて」とだけ言い残し再びこの場を去っていく。

「臨也さん、今日はご機嫌みたいだな」

そう口にして、これから上司と何処に食べに行こうかとほのぼのした空気に包まれながら、名前は考えていた。

勿論上司の好きな食べ物の事を考慮した上でだが。

「よし、お寿司がいいかな」

大トロばかりを注文して食べる臨也を思い浮かべては、名前がプッと軽く吹いてしまったことを臨也は知らなかった。




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