「臨也さん、遅くなってすみません。帰りましたー」

私は一年前から、自称素敵で無敵な情報屋の折原臨也の助手として、同居することになってしまった。

もうほぼ、いや100%無理矢理させられたのだ、彼に。
本当だったらこんなことやってなかった筈なのに全く…

「臨也さん、居ないんですかー?」

臨也さんに頼まれた買い物を済まし帰って来たというのにお帰りの一つも無いのか、あの人は。
今日は波江さんが居ないから余計忙しかったってのに。
許せん、折原臨也。

と、勝手な、そして何をしても敵わない相手に闘志を燃やしていた私だったが、ピタリと歩く足が止まってしまった。

仕事場の部屋を開けると、すぐそこには臨也さんがニコニコしながら立っていたのだ。
最早ホラーだ。

「やぁ、お帰り」
「居るなら返事してくれれば良いじゃないですか」
「なまえさ、今シズちゃんと帰って来たでしょ?」
「……は?私の言ったことはスル」
「携帯の電池パックのとこ、見てみなよ」

どうやら私の話しは聞く気がないらしい。

笑顔を浮かべてそう言う彼に恐怖を覚えていたのは確かだが、携帯に何をされたのかという恐れも同時に私にはあった。

恐る恐る携帯の裏のカバーを外してみると…

「え…何で臨也さんの顔写真が!?しかも顔の部分だけ切り取ってある…こんな満面笑顔の臨也さんなんて怖いだけじゃないですか。ていうかこんな物入れてどういうつもりなんですか。あと、誰に撮って貰ったんですか。臨也さんにそんな友達…」
「自撮りだけど、何か?それと、俺の写真をこんな物呼ばわりとは…君も熟罪深いよね。しかもなまえさぁ、もう一つの方には気付かないわけ?」
「ん?…あ、」

何と、そこにあったのは盗聴機。

ここで、一つ疑問が浮かび上がってきた…

「臨也さん、こんなのいつ仕込んでたんですか?」
「今日の朝、君が入浴してる時にね。だから今朝、覗きに来なかっただろ、俺」
「え…」

ボトッ。
携帯を落としたまま硬直状態のなまえを見ては何時もの様に随分イヤな笑みを浮かべる臨也に彼女の顔は引き吊った。

「え、えええ…臨也さん、覗き見してたんですか…」
「まさか。冗談だよ、冗談。流石だねぇ。…んで、何でシズちゃんと一緒だったのさ?」

怒りたいのは山々なのだが、どうやら相当あっちも頭にきているらしい。
2メートル程の臨也との距離。

しかし臨也はその距離を縮めるかのように突然一歩前に足を踏み出し、なまえの左手首を掴んで自身の方に引き寄せた。その華奢な体格からは想像もつかない強い力で。

「痛っ…」
「嫉妬してるって…流石に超鈍感な君にも分かるよね?」
「臨也さんの言う嫉妬がよく分かりません。私が貴方の愛する“人間のうちの一人”だから臨也さんの嫌いな静雄さんと話してて嫉妬したんですか?それとも恋人とかに抱く嫉妬ですか?」
「さぁ?それは自分で考えることだね」

そして手をヒラヒラさせながらパソコンの前の椅子に腰を掛けてはカタカタと何かを打ち始める。

全く、何て自分勝手な人なんだ。
しっかり指定時間内に戻ってきたし、買い物だって済ましてきた。
私が誰と帰って来ようが臨也さんには関係ないことでしょう。

心の中でブツブツ呟きながら、テレビの前のソファに座り、携帯を取り出す。
しかし我ながら、結構大胆なことを言ってしまったな。嫉妬がどうこうなんて、知ったこっちゃない。

ふと携帯に目をやってみると、いつの間にやら静雄さんから着信がきていた。
一気に明るくなる私の横顔を見て、チッと臨也さんが舌打ちをするが、そんなことお構い無しに静雄さんに電話しようとした。


のだが…

「誰に電話掛けるつもり?」
「別に…その…」

携帯を握り締めるなまえの手をギュッと握り締め、画面を見ると、“平和島 静雄”そして彼の電話番号が表示されていた。

「へぇ…シズちゃんに…」

どうせ分かってたでしょ、と言わんばかりの視線を送ると彼が発信ボタンを押した。

「もしもし?なまえか?」
「シズちゃんさぁ、もうなまえには近付かないでくれる?」
「あ゛ぁ?いざ…」

―ツー…ツー…ツー…


要件だけを言って済ませる臨也さんが腹立たしかった。
それだけじゃない。
勝手な事を言った臨也さんに、本気で怒りを覚える。

いつの間にか外にはどしゃ降りの雨が降っていて、雨の音と、回線を切られた携帯電話の音だけが耳に入ってきた。

「臨也さん…」
「随分不服そうな顔だねぇ」
「携帯、返して下さい」
「どうせまた、シズちゃんに電話するつもりだろう?」
「当たり前です」

私は臨也さんの右手に収まる携帯を取り上げようとするが、彼の左手によってそれは阻止された。

臨也さんの左手に握り締められる右手首が痛い。

「ねぇ、何でシズちゃんなわけ?シズちゃんのどこがいいわけ?」
「そうやって臨也さんみたいに無理強いしないところとか、一緒に居て落ち着くところとか…何よりも、私を大事に思ってくれているところです」

次々と出てくる言葉に、明らかに臨也さんは顔を歪ませた。

「じゃあ君はそう言う人なら誰でもいいわけ?」
「それは違っ…!」
「なら、シズちゃんだから?シズちゃんのことが好きだから?」

何でこうも人の気持ちとは伝わりにくいものなのだろう。
いつも一緒に仕事をして、一緒に食事をして、時に二人で街へ出かける。
自分がこの男に利用されているだけかもしれない────

そう思ってても、分かってても、彼と一緒に居てしまう自分が悔しい。
彼自身もそれに気付いているはずだ。
絶対に自分から放れることはない…と。

それがまた、悔しさを倍増させる。
ならいっそのこと、試しにこの人の側から放れてみるか…

「臨也さんお願いです。携帯返してください」
「……………」
「あんまり私のこと見くびらないで下さいよ?私は貴方のものじゃない。この一年間ずっと、絶対に離れて行かないから大丈夫だとか思ってたでしょう臨也さん。あぁそれと、もうその携帯はいりませんから、じゃあ」

そんな無理矢理なことを言って部屋を出ていこうとした時、左手首に暖かさを感じた。

臨也が咄嗟に無意識に出してしまった右手がなまえの右手を掴んでいる。

「雨降ってるけど」
「そんなの見れば分かります。というか、雨の音聞こえてますから」

私は、臨也さんの方には振り向かなかった。
彼に背を向けたままそう言い放つと、私の手首を掴む彼の手に力が加わったのが直に伝わってきた。

「もう、夜遅いんだけど?」
「それも見れば分かります」
「何処に行くの?」
「…自分の部屋に…戻るだけですよ…」

本当はそんなこと言うつもりはなかったのに。
静雄さんにさっきの電話のこと謝りに行くつもりだったのに。

「うん。やっぱり、どちらかと言うと後者かな」
「意味分かりません」
「嫉妬のことだよ。俺の愛する“人間のうちの一人”だからシズちゃんと話してて嫉妬したのか、それとも恋人とかに抱く嫉妬なのか。両方だけど…どちらかと言うと、後者だねぇ」
「恋人じゃ、ないですけどね」
「じゃあ一度、なってみる?」

一瞬だけ、雨の音が掻き消された。

「あの、それは告白とかじゃないんですよね…?」
「今のが告白じゃないなら、何だって言うの?」
「いや…どうせまたからかわれてるだけかなって…」
「で、答えは?」
「臨也さん、勝手ですね」
「ならその勝手なオレが勝手に決めてあげるよ。付き合おう」
「本当に、勝手ですね。でも、今のは勝手でしたけど無理矢理じゃないです。私も、臨也さんのこと好きですから」
「やっぱり」

そんな言葉と共に笑顔を見せてくれたと思ったら、臨也さんは突然キスを落としてきた。不意打ちじゃない?今のは。



嫌いと嫉妬は隣同士



大嫌いだった大好きな、
素敵で無敵な情報屋さん。


──────────

やったよやった。
アニメと原作8巻を見返してたら書きたくなったから書いちゃったらこんな話になってた。

チャットネタもやりたい。甘楽な臨也好きだ。
ネカマ設定がいいですね甘楽は。


20100805





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