※このシリーズは臨也が変態です。閲覧注意してください。















好意(ただ名前を呼んだだけ)を見せたら、
行為がエスカレートしてしまいました


「最近、あの子見なくなったわね」
「あの子?」
「ほら…前にあなたに際どいことをされて本気で嫌がっていたあの来良の子よ」
「際どいってそんな。なまえの了承を得た上でやったはずなんだけど」
「“はず”でしょ」
「てか、俺常になまえと会ってるし。君に言ってないだけで」
「あら、そうなの。あの子もこんなヤツに可哀想。ま、私には関係ないから、迷惑をかけない程度に好きにやってちょうだい」

波江は本当に、心の底からさぞどうでもよさそうに言葉を吐き再びパソコンの画面に向かった。
今さら波江に俺となまえのことに干渉されるのも嫌だけど、正直波江は失礼だよ。


俺がなまえに嫌われてると思ってる。
勘違い勘違い。
どこをどう見たらそうなるの。

「あ、そうそうそれと。今朝あなた宛に手紙が届いてたわよ」
「誰から?」
「だからそのさっきの「早く貸して見して持ってきて」
「…………」

はぁと短い溜め息を吐き捨て、波江は気だるそうに椅子から立ち上がる。

(なにかしら)

後ろから強い視線を感じたので波江がチラリと後ろを振り向くと、キラキラと目を輝かせる上司がいた。

(後ろなんて振り返るんじゃなかったわ…)

そんな波江の心の内を知るわけもなく、ただ俺はなまえからの手紙だけをじっと待っていた。





「ほらこれ」
「ありがと」

波江の手からサッと手紙を取り上げる。

“折原臨也さん from みょうじなまえ”

と、可愛らしい文字でそう書いてあった。
俺はついに、なまえの文字まで愛してしまった。
かなり重症だろうが特に問題ないので心配はいらない。

「なまえからの用件は…っと」



──折原臨也さんこんにちはこんばんは、はたまたおはようございます。
この手紙をあなたがいつ読むか分からないのでこんな挨拶になってしまいましたが許してくださいね。



「許す、許すよ。全然許す」
(何を言ってるのあの人…)

波江からの冷たい視線には気付いていたのだが、今はそんなことどうでもよかった。
その上波江だって弟大好きで過度な変態なんだから。

…いや、「波江だって」って言い方だとまるで俺も変態みたいになっちゃうよね。
ただ俺は純粋になまえを愛してるだけだからさ、本当に。

けどまぁいい。続きを読もう。



──突然で申し訳ないのですがお願いがあります。
できれば折原さん、

「謝らなくてもいいんだよ」

そんなわざわざ謝らなくても君の頼みならなんだって聞いてあげるのに。
こんな礼儀正しいなまえが可愛くて可愛くて仕方がない。
今度会ったら沢山愛でてあげなくちゃならないか。そんなこと朝飯前だけど。

…あ、なんか今ちょっと波江がドン引きしてた気がしたよ?

けどまぁいい。続きを読もう。



──よろしければ、今度一緒に映画を見に行ってくれませんか?あ、折原さんさえよろしければでいいです。



なるほど、これが初めての共同作業ってやつか。
なまえと“友達”っていう関係だとはこれっぽっちも思ってないけど、なまえからの頼みなら仕方ないよね。

よく考えてみれば(よく考えてみなくてもだが)共同作業でも何でもないのに、俺は勝手に“共同作業”と銘打ってなまえからの頼みを快く承諾した。
共同っていう響きがなんかよかった。
別に何かを共に成し遂げる友達が今までいなかったわけではない。
ただ、自分で何でもこなしてたから一々誰かと作業をするまでもなかった、それだけのこと。

(折原さんさえよろしければ…って。俺はよろしいよ。よろしすぎて今からでも君に会って返事がしたいんだよねぇ)

でも生憎今日はこれから仕事が入ってる。
くそ、仕事さえ無きゃなまえと会えたのに。



──で、映画の内容がですね、ホラー映画なんですけど。折原さんそういうの平気ですか?



あぁもう全然平気。俺はそういうの信じないしね。
そんなことより隣に座ってるなまえのことの方が気になって仕方ないだろうけど。
カップル席で見るしかないかなぁこれは。

怖がるなまえを優しく「大丈夫だよ」と守る俺の図が脳内で完成した。
我ながら上出来な想像図になったね。



──私今やってるあのホラー映画が見たいんですけど、友達がそういうの無理なんで誰も見に行ける人がいなくて。一人で行くのもなんかちょっと気が引けるというか。
どうせなら折原さんどうかな、って。

…というわけで、ご検討よろしくお願いします!
ちなみにお返事についてですが、レターセットと切手を同封してあるのでそちらにお願いします。

では、また今度!



(ああでもなまえはホラー映画見たがってるわけだから怖がりはしないのか)

なら仕方ない。
真面目にホラー映画を見るなまえを隣の席から妨害しよう。

今度はちょっかいを出す俺とそれを嫌がるなまえの図が脳内で完成した。
やっぱり我ながら上出来な想像図である。

ちなみにどうやってちょっかいを出すかは後で色々と俺が考える。

「波江さんさぁ、今からレターセット買って来てくれない?」
「は?」
「いやぁ、ホラー映画見に行かないかって誘われたんだよ。だからなまえに返事が書きたくてね。彼女がレターセット同封してるんだけど勿体なくて使えないんだよ。だから「あんたが買いに行けばいいでしょう」

だめだ、波江は一度こうなったら言うことを聞かない。
なまえのためだ、仕方がない。オレが自分で行くか。
ついでに映画に行くのに必要な物も買いに行こう。

「ねぇ、映画見に行くのに必要な物って何?」
「あなた本当に今まで寂しい人生を送ってきたのね…。映画なんて財布と携帯だけ持って行けばいいでしょう」
「そう。ならいいや。ということはもう俺は準備万端だ。これがあるからいつでもなまえと映画に行けるってわけか」

「…?」



(大丈夫、ポッキーなら用意してあるから)



「一応聞いておくけど…それ、何に使うの?」
「なまえとポッキーゲームがしたくてさ」
「本当にあの子可哀想ね。…あなた、メールじゃなくてわざわざ手紙であの子が誘った理由ちゃんと理解してるの?」
「ラブレター感覚だろうねぇ。きっと」
「はぁ、呆れた。私にはメールだとすぐ返事がくるだろうからとそれを踏まえて手紙にしたようにしか思えないわ」
「なまえとポッキーゲームかぁ。楽しみだなぁ楽しみだなぁ楽しみだなぁ!」
「……今日はもう帰ろうかしら」

それから俺はレターセットを買いに出掛けた。
帰って来た時にはもうすでに波江さんがいなくなっていて少し驚いたけど今日は許そう。
とにかく、レターセットなんて買うのは人生初のことだった。





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