「情報屋!!来たわよ!!」
……応答なし。
大嫌いで大嫌いで仕方ない情報屋のマンションに呼び出され、部屋に入って来れたまではいいものの彼がいる気配は全くない。
なんなの、アイツ。
からかってるの?
「もういい、帰る!」
そう言い放ち、私はパッと玄関の方に向き直った。
すると右手首に、ぎゅっと暖かいものを感じた。
あ、こいつ。いたんじゃん。
…ってか握るな触るな近付くな!
「やぁ、俺の大事な大事な情報源」
「別にアンタのために情報屋やってるわけじゃない」
「でさ、どう?前に話した事件の詳細、何か掴めた?」
「掴めたわよ。その代わり、5枚」
「そりゃ随分な情報量だね」
手のひらを前に出すと、その上に諭吉を5枚彼は乗せた。
私は池袋に住む情報屋。
そして彼に小買いされてる情報屋のうちの一人で、情報源でもある。
確かに、目の前にいるこの男は優秀な情報屋だ。
名も知れている。
色んな人や組織とも絡んでいる。
けれど、だ。
私はこの男が嫌いだ。大嫌いだ。
第一印象は、彼の顔が良かったためか、こんな人でも情報屋なんてやってるんだって感じ。
が、実際話してみたらもう何というか…気に食わなかった。
「君みたいな子が情報屋やってるとはねぇ」なんて言われたが、それはこっちのセリフである。
それからコイツは私の住所と携帯電話の番号とメールアドレスを割り出してきたのだ。そして年齢や学歴なども。
ちなみにこいつとは三歳差らしい。年下は私の方だ。
二度目に会った時、何故かコイツが私の家に直接来たときは少し驚いたけど、そこまで驚いたわけではない。
「こいつ割り出したな」、という言葉だけをひたすら胸中でリピートして彼を睨んでいたということを今でもよく覚えている。
「……ってこと。これが私の仕入れた情報」
「流石だねぇ。でもさ、5万は流石に高過ぎじゃない?」
「私の生活費だもん。値下げしないから」
「その5万は何に回すのかな?」
「服」
「ふーん。服ねぇ…」
そして情報屋は「君も一応女の子なんだね」、何て鼻で笑った。
私だって服くらい欲しいよ。
「アンタみたいなのだいっきらい」
「会う度に言われてるね、それ」
「当たり前じゃん。大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い。早く消えていなくなれ」
「女の子がそういう言葉遣いしちゃいけないよ?」
「散れ」
「大丈夫、俺も君みたいな子は好きじゃない。人間としては大好きだ!愛してる!」
くっそこいつ鬱陶しい…
そしてよく分からない。
あ、ていうか私がこの部屋から出て行けばいいのか。
よし出よう。
そう即決してはソファーから立ち上がり、ショルダーバッグを肩に提げ私は早々に退散しようとした。
けれど情報屋は「うちで食べて行きなよ」と言い私を引き止める。
「いやだ」
「何で?少しだけど食費浮くよ?」
「アンタと食べるのが嫌なの」
「あっそう」
「つか夜遅いのに呼び出すとは…」
「君なら襲われないから」
「うっさい」
「送ってくなら今のうちだよ?」
「別にアンタと一緒になんて帰りたくない」
すると情報屋は、私の前に1万円を出してきた。
え、意味分かんない。
「これで帰りな。今タクシー呼ぶから」
「いいってば。そんな借り作りたくない」
「借りとかじゃないから」
「信用できない」
「じゃあ泊まって行きな」
「は!?何考えてんの!?」
「なら、受け取ってくしかないよね」
強引に1万円を渡され、私は少しの間硬直してしまった。
その間に彼は携帯電話でタクシー会社に電話をしてマンションの下まで来るように指定している。
「下にタクシー呼んだから。あと少ししたら行きな」
「…………」
「そんな顔してるとぶっさいくになるよ。そこそこ可愛いのに」
「そこそことか失礼だから」
「あぁ、ごめんごめん」
反省しているようには全くもって見えないが、取り敢えず私は再びソファーに腰を下ろした。
「ねぇ君さ」
「……何?」
「好きな人とかいるの?恋人とか」
「そんなのいないわよ」
「じゃああれは男友達ってことでいいのかな?」
「誰のこと言ってるの?」
「前に君の家にいった時にいたあの男だよ」
あぁ、私の幼なじみのね。
まぁ確かに仲は良いしよく遊びに行ったりするくらいの仲だし。
勘違いされてもおかしくはないのだけれど…
「アンタには関係ない」
「そうだね。俺には無関係だ。たださ、君の周りのことを色々調べ上げれば、もしかしたら使えることがあるかなとも思っただけだよ」
「…ほんとヤなヤツ」
「君にそう言ってもらえると中々嬉しいよ」
あ、そろそろじゃない?
情報屋は時計を見ると、迎車が来るには丁度いい頃合いだった。
「それじゃ」
「気を付けるんだよー。借りは今度寿司奢ってくれればいいから」
「誰が」
大トロしか頼まないヤツになんて奢れない。
私はムッとした表情を情報屋に見せ、ベーッと舌を出して部屋を後にした。
(仲良くしなさい)
「今度魚でも送り付けようかな…死んだ魚の目でも見せつけようっと」
私はアンタの嫌いなもの、知ってるんだから。