「明日席替えだよね〜うちのクラス」

昨日、某さんがそう言っていた。
私は何だかんだで今の席は好きだし、周りに苦手な人なんて居なかったから席替えは余り気乗りしない。

だから教室の扉に手を掛けている今、少なからず緊張している自分に言い聞かせた。
それは無い。
何があっても無い。
クラスメイトなんて沢山いるんだから。
アイツの近くの席になるなんて、あり得ない。

そう胸中で繰り返した後、教室に入り黒板に貼ってある新たな座席表に目をやった。

自分の平凡な名前を探すのに一苦労だ全く。
中にはアイツの様な名前なのかも分からない親がどんな意味を込めてつけたかも予想できないその上初見じゃ読めもしない名前のクラスメイトも中にはいる。

ああ、やっぱりすぐ目に入るアイツの名前。
座席表には何十人もの生徒の名前が連なっている中異様な程までに目立つあの名前。

「中々いい席じゃん…」

そいつの名前を見付けた時にそう思った。
窓に一番近い列の後ろから二番目が彼の席。

なら私は廊下側の一番前の列がいいな、正反対の位置だし。
そう思い座席表の廊下側の列を確認するがみょうじなまえの文字は無い。

まぁある程度離れてるならいいかと思い真ん中の列を見ていくが、またも自分の名前は何処にも無い。
まさかと思いアイツがいる席の列を確認すると…

「……………」

窓側の列の一番後ろ。
特等席じゃないか!!
最高の特等席じゃないか!!
というか前の席も此処だったじゃないか!!

しかし今回は、今回だけは最悪の特等席。


アイツの後ろの席だよどうするよ。

「ヤッホー」

一気に重くなったように感じる足を何とかして動かし席に着くと、前の席の変態が私に振り向き声を掛けてきた。変態というのは、どんな人間も愛しているという彼の代名詞だ。

「随分テンション高いじゃん折原君…」
「まぁね。なまえも感謝するべきだよ?君の席をこの教室内で一番の特等席にしてあげた俺に」
「意味わかんない」
「だからさ、俺が担任に頼んで君をその席にしてあげたの。さぞかし君はその席を気に入ってたみたいだからね」

うん確かに気に入ってたけど。
気に入ってたけども。
それは周りの方々にも恵まれていたからであって折原君あっての私じゃないし。

「それと補足。シズちゃんが廊下側の一番前の俺達から正反対の席なのも俺が頼んだ。俺がこの席なのも俺が頼んだ。前の席で色々あったからね」

そうだ。確かに前の席は気に入ってたのだ。
しかし平和なことだけではなかった。
いくら気に入ってた前の席でも嫌な事が唯一あった。


折原臨也からの数々の嫌がらせ。


私は大変な恨みを買ってしまった。折原君の言う通り、本当に色々なことがあったよ。
例えばどんなことがあったか詳しく説明すると、ある日の授業中…











「静雄、ごめん。これ分かる?」

数学の授業だった。
分からない問題があったから、前の席(今の臨也の席)の静雄に質問しようと声を掛けてみる。

「どれだ?」
「91ページの2番。解が全くなんだけど」
「それ、√3じゃねーのか?」
「嘘っ!ありが……ん!?」

何か頭に刺さった。
横から飛んできたよ何か。
明らかに私目掛けて飛んできた何かに視線を移すと紙飛行機があった。
うっすら文字が透けて見えることから、その紙飛行機には何か書かれているという察しがつく。
何だと思い飛んできたそれを開いてみるとこう書いてあった。


―バカななまえへ。

ちゃんと授業は聞くべきだよ。先生がなまえのためにどれ程の涙を流してきたか分かってる?
あ、勿論嬉し涙じゃないから。勘違いしちゃいけないよ。

それから。91ページの2番の解は3だから。ただの3だから。

天才臨―

正確に言えば、天才臨也くんだか何だか書いてあったのだろうが、途中で読むのを止めた。理由は言わない。

鋭い目付きで折原君を見てみると、案の定嫌な笑みを浮かべる折原君が私を見ている。

「なまえ、どうした?」
「静雄、この問題3だって」
「おお、そうか。何でいきなり分かったんだ?」
「俺が教えたからだよ」

わりと自分達に近めな席にいる折原君は静雄に聞こえるようにそう言う。
何て事をするんだ折原君。

「いーざーやーああああ!!!!」

その後折原君と静雄は教室を抜け出してグラウンドで追いかけっこという名の死闘を繰り広げていた…











「でさ、なまえ。折角お向かいさんなんだから仲良くしようよ、今まで以上に」
「別に折原君と仲良くした覚えはないけど」
「一緒に手を繋いでシズちゃんから逃げ回った仲じゃん」
「巻き込まれただけだよ私…」

ああもう毎日こんなんじゃバテるなぁ。



♂♀



放課後、委員会の仕事を済ませた私は週番日誌を書きに教室へ戻った。
普段ならそのまま帰宅するのだが、今週の週番は私なのだから仕方無い。
週番は席順で、2名ずつなので折原君も週番。
しかしもう6時だ。きっと折原君は帰宅済み。寄り道をしていなければ。

最終下校時刻はまだなのだが、外は真っ赤な夕陽で染まっている。
グラウンドで部活をやっている生徒達が廊下から見えた。
階段を上り教室に入ると、まさかの光景が目に映る。
自分の席に着いている折原君がいた。
席に着くと言ってもちゃんとした姿勢ではなく、廊下側に体を向け、右膝を椅子に立てるという何とも偉そうな感じの姿勢。
でもその姿勢からは、折原君が誰かを待っていたかのようにも窺える。

因みにバックは夕陽。

意外とかっこいい。
何だかんだで、短ランも似合ってる。

「待ってたよ」
「もう帰ってるかと思ってた……ありがとう」
「なまえ一人に今日任せたら、明日は俺が一人で書くことになってただろうからね。ま、俺が今日一人で書いちゃっても良かったんだけど」
「そっか。たまには優しいとこあるんだな、ちょっと折原君にしては意外。と思ったけど、理由を聞いて納得したよ」
「あのさ、折原君ってのやめて臨也って呼んでくれない?シズちゃんだって静雄なのに」
「臨也く「臨也でいいから」

間髪入れずに訂正を入れる折原君…いや臨也君。

「臨也君、」
「臨也」
「い、ざや…日誌、書こうか」

パラッとページを捲りシャーペンで日付を書いていく。
すると臨也君…いや、臨也が突然とんでもないことを言ってきた。

「いつかなまえの名字、折原にしてあげるから」
「はい、そういう冗談は聞かなかったことにしますので」
「言っておくけど、本気だから。なまえと仲の良いシズちゃんと席を遠ざけたのも、シズちゃんとなまえが喋ってる時紙飛行機投げたのも、妨害したかったからだよ」

そう言えば前に門田が言ってた。

臨也は好きな子程苛めたがる。まるで愛情表現が小学生男子、と。

「私、この席ホント嫌いだよ」

だけど、明日もし臨也が休んで前の席にいなければつまらないと思ってたかも。

ちょっかい出されるのも、実は私そこまで嫌じゃなかったのかな。

「だって臨也が好きだったんだって気付いちゃったから」



12才までの愛情表現



臨也の愛情表現は確かに小学生男子の愛情表現かもって思った。

「俺も好きだよ」

それでもどこか大人な彼に惹かれていたんだ────


20100811





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