「オイ!てめぇもう何枚目だ!」
「黒鋼こそ何枚目よ!人に言えることじゃないっつーの!」
「お前ホントに女なのか!?」
「知らないわよそんなこと!女として育てられた男かもね!!」

肉を取り合いながらガミガミ言い合うのはやはりこの二人…名前と黒鋼。

「名前ちゃーん。それ、問題発言だよー」
「フンッ!ファイまでそんなこと!もういい、いっぱい食べてやる!」
「太るぞ」
「今更太っても変わらないですー」

ファイの言った言葉が捻れ伝わってしまい、ファイはあはは、と苦笑い。

次々と名前は肉を頬張るが、それに負けじと黒鋼も肉を頬張った。

が、ここでモコナが黒鋼に宣戦布告。
突然ニコニコしながら隙を伺い、黒鋼が気を緩めた瞬間、持っていたフォークで彼の肉を突き刺し口へ運んだ。
この光景は、先程の名前と黒鋼を思い出させる。

「あははー、なんか注目されてるねー」
「やっぱりこの格好がいけないんでしょうか」
「んー、全然違うもんねぇ、ここの国の人達と。特に黒たんがー。モコナはいい子で動かないでいるもんねー」
「あー?文句あっか」

黒鋼は不機嫌だった。
しかしそれ以上に不機嫌なのが…

「黒鋼着替えた方がいいんじゃない?」

名前は横目で黒鋼を見ると、再度肉に視線を落とした。

「お前も着替えたほ…あぁ?」

指で何か黒鋼に合図するファイ。

人差し指を口許に立てて、シーッと言っていた。
要するに、名前に機嫌を直して欲しいと、そういうことだろう。

「あの、大丈夫なんでしょうか、この食事」
「んん?」

小狼が眉間に皺を寄せてそう言うのが聞こえたものだから、名前は肉を口に運ぶ手を止めて彼に耳を傾けた。

「この国のお金、ないんですけど」
「………あ」

しまった、と思いフォークを置くと、突然真顔になる名前。

「あの、そんなこと全く気にせず食べててすみませんでした」
「大丈夫だよー。ねっ、サクラちゃん」
「え!?」

するとファイは突然席を立ちサクラをある席へと誘導する。
名前と小狼が二人についていくと、その席ではゲームが行われていた。

所謂、ギャンブル。
確かに、これはサクラに持ってこいのゲームだった。

「サクラ、カード…どうなった?」
「こうなったの」

サクラが持っているカードをテーブルに広げると、ズラッとティアラのマークのカードが並んだ。

その瞬間、ワッと歓声が沸き上がる。



それから何度も何度も試しても、歓声が止むことは無く、結局全勝。

「何度やっても負けないなんて!一体どうなってるんだ!?」
「イカサマじゃないのか!?」

サクラとゲームをした相手の男が怒鳴り始めると、ファイが

「イカサマしてるヒマなかったでしょー。はいはいごめんねぇ〜」

と言い大量のお金を袋に詰めた。

「文句あるならあの黒い人が聞くけどー」
「黒い人って…」

恐る恐る後ろを振り向くと、未だにモコナと戦いを繰り広げている黒鋼が視界に入る。
こちらからの視線を感じたのか、男達を黒鋼がギロッと睨んだ。

「あぁ?」
「い…いや!」
「う、疑って悪かったな!」

余りの黒鋼の威圧感に、男達は即座に逃げていった。

「はい、サクラちゃんお疲れさまー。これで軍資金ばっちりだよー。この国の服も買えるし。食い逃げしないでオッケー」

霧の国でも見せたあの紳士的な一面を、またもファイは見せた。

サクラの右手を優しく自身の右手に載せ、ソッと椅子にサクラを座らせる。

「あの、すみませーん。お冷やのおかわりいただけますかー?」

名前のグラスにチラリと目をやると水が無くなっていたので、ファイは店員を呼んだ。

「ありがとう。でも、店員さん呼ぶくらい出来るのに」

クスッと笑いながら言う彼女に、「名前ちゃんの水無かったのに気付いたからー」と笑って見せる。

「はいよ、お嬢ちゃん。…しかしそっちのお嬢ちゃん凄いなぁ。さっきの、見てたよ」
「ルールとか分かってなかったんですけど、あれで良かったんでしょうか?」
「あははは、面白い冗談だな!」
「冗談じゃないんだけど…」

そんなサクラを名前はニコニコと見詰めていた。
段々喋るようにはなってきたかな?
なんて心の中でそのことを喜んだ。

「変わった衣装だな、旅の人だろう?」
「はい、探しものがあって旅を続けています」
「行く先は決まってるのかい?」
「いえ、まだ」

小狼がそう口にすると、突然店員が顔色を変えてこう言った。

「…だったら、悪いことは言わん。北へ行くのはやめたほうがいい」
「なんでかなぁ?」
「北の町には恐ろしい伝説があるんだよ」
「どんな伝説ですか?」
「昔、北の町のはずれにある城に、金の髪のそれは美しいお姫様がいたらしい」





―ある日、姫の所に鳥が一羽飛んで来た。
輝く羽根を一枚渡してこう言ったそうだ。

「この羽根は“力”です。貴方に不思議な“力”をあげましょう」

姫は羽根を受け取った。
そうしたら王様と后様がいきなり死んで、姫がその城の主になった。

そして、その羽根にひかれるように次々と城下町から子供達が消えていって、二度と帰って来なかったそうだ…─────





「それはー、おとぎ話とかいうヤツかな」
「いいや、実話だよ」
「実際に北の町にその城があるんですね」
「もう三百年以上前の話だからほとんど崩れちまってるがな」

しかし一つ疑問が残る。
それだけが、店員の忠告の理由だとは到底思えなかった。

「…あの、そんなこわい話があるから北の町には行ってはいけないんですか?」
「夜寝られなくなるからー?」

ファイの発言で少し名前の中にあるモヤモヤっとした気持ちが消えた。

夜寝られなくなることを大人に心配する人がいるかと、心の中でツッコんだ。

「いや、伝説と同じように、また子供達が消えはじめたんだよ」

それから何分か伝説について聞き、一行は新たな場所へ向かい始める。

勿論、北の町へ…







「…“力”をくれる輝く羽根。なんだかサクラちゃんの羽根っぽいねぇ」

ジェイド国での服装に着替えた四人は、馬に乗って町を移動することとなった。

小狼とサクラ、名前とファイは同じ馬に、黒鋼はモコナと同じ馬に乗っている。

「モコナ、強い力は感じない」
「でも、羽根がないとは言い切れないよねぇ。何か特殊な状況下にあるのかもしれないし、昔の伝説って言ってたけど、春香ちゃんのとこでもそうだったしね」
「で、行くのか」
「はい、北の町へ」



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