「到着ー?」
「だね、なんだかレコルト国とはだいぶ違うみたいだし」
「姫は…」
「寝ているだけだ」

レコルト国で記憶の羽根を見つけたのはいいのだが、そのお陰でサクラはぐっすりと眠ってしまっている。
そうだと分かっていても小狼はやはり心配だったらしい。
寝息を立てて眠るサクラを見てホッと安心しきった顔を見せた。

「何とか逃げられたねー」
「でもファイ。魔法は使わないんじゃなかったの?」

ヘラヘラと普段のように笑って言うファイにモコナが疑問をぶつける。
それは皆が同じように疑問を抱いていたことで、同時に名前にとっては焦りとなった。
同じ質問が、きっと自分にもくる。

「んー。一応今まで使ってた魔法とはちょっと違ったんだけどねぇ。音を使った魔法で、オレが習ったのとは別系統の魔法なんだけど」
「魔力は魔力だろ」
「かなぁ」

ファイの言った言葉はその場凌ぎの誤魔化しだとすぐに気付いた。
さっき彼が使ったあの魔法は魔力を使っている。
いくら別系統だと言っても魔力を使ったことに変わりはない。

何よりも、彼が見せた屈託ない表情が一番「誤魔化し」ている証拠だ。

「名前さんは…」
「治癒魔法は魔力そんなに使わないから」
「よかった」

身を案じていてくれたのか、小狼はそう言って優しい笑顔を見せ「治療ありがとうございました」と礼を言う。

「いいえー」

何事もなかったかのように満面に笑みを浮かべる名前。
黒鋼とファイは彼女の笑顔に眉を潜めたが、驚いたことにその後二人とも名前には魔法に関して一切疑問を投げ掛けてこなかった。

「ファイさん、すみません。おれが図書館からの脱出方法をもっと考えてれば…」
「小狼君は精一杯やったでしょー。ちゃんと記憶の羽根取って来たし」
「…………」

ファイにそう言われたものの、小狼は深く肩を落とし酷く苦しそうな顔で俯いてしまう。
モコナは小狼の肩の上にぴょんと跳び乗った。

「どうしたの?小狼ケガ痛い?」
「名前さんに治療もしてもらったし大丈夫だよ」
「ごめんね、治り切らないケガとかあるよね…」
「いいんです。これだけ治してもらえたら十分です。本当に助かりました」

小狼の心からの感謝だと分かる。
こうして自分が魔法を使うことで喜んでもらえると嬉しいな、なんて思う名前だったが、ちょっぴり残念な気もした。

自分は治癒魔法よりはどちらかというと攻撃魔法寄りで、せっかく強い魔力を持って生まれてきたのにそれが治癒魔法にはあまり使えないなんて。
魔法自体は使えるのだが、ケガや病気が重くなれば重くなるほどそれだけ使う魔力は強くなる。
その影響は同じ規模の攻撃魔法を使うより名前にとっては大きなものだった。

「そろそろ外出て確認しよっかー。ここがどんな国か」
「うん。サクラの羽根見付けないとね」
「はい」
「さてー。今度はどんなとこかなぁ」







「お姫様だっこだー」
「あぁ?」
「ずっと担いでるとサクラちゃん頭に血が上っちゃうよー」

お姫様だっこお姫様だっことはしゃぐモコナに険しそうな顔をする黒鋼。
それがよりモコナを楽しくさせたようで、今度は黒鋼の肩の上でぴょんぴょん飛び跳ね始める。

「しかし何なんだここは」
「壊れた建物ばっかり」
「平和な国…ってわけじゃないみたい」
「小狼君の治療がしっかり出来るようなとこあればいいんだけどー」

どれだけ歩いても、そしてどれだけ周囲を見渡しても瓦礫だらけ。人の姿もいまだに見ない。
レコルト国に比べると悲惨な状況に置かれていることが手に取るように分かる。

「どうしたのー?」
「この廃墟、瓦礫の角が丸いんです」
「それがどうした」
「風化したにしても風だけでこうなるものなのか」
「確かにそうね」

言われてみれば確かに瓦礫の角が丸い。
一つ一つ確認してみると、どれもそのような物ばかりだ。
不審に思い色々な角度から瓦礫を確認していると、突然雨がぽつぽつと降り始める。

「あ!いたい!いたいよぉ。なんでぇ?」

さっとモコナが小狼の服の中に潜り込んだ。

「ほんとだ…。この雨痛い」

ジリジリと焼けるように痛む手の甲。
じっと佇む名前を見てファイは急いで着ていた上着を脱いだ。

「名前ちゃんこれ上から被って!」
「ファイが使ってよ、大丈「夫じゃないよね」

優しく上からコートを被せてくれるファイ。
それが嬉しくて、被せてくれたコートの端をきゅっと握りしめた。

「いつもありがとう」

そう言って背の高い彼を見上げると、優しく頭を撫でてくれるファイ。
優しい彼が、どこまでも名前は好きだった。

「これお水じゃないよう」
「このまま雨に当たってるとちょっとまずいねぇ」
「あの建物はまだ倒壊してないみたいです!」
「黒たん急いでー」
「また走るのかよ」
「雨いっぱい降ってきたよー」
「良かったー。あの建物雨宿り出来そうだよー」

名前達は、近くにあった大きな建物の中に駆け込む。
しかしその中で見る光景は、外で見た悲惨な景色よりも更に残酷なものだった…





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