「小狼君を捕まえたのは耳としっぽが生えた小さい人達だったとー」
「どっちの方にいるの?その人たち」
「こっちのほうに担いで行きました!」
「桜都国でやった訓練はどうなってんだ。木の実後ろ頭にぶつけて昏倒とはな」

苦い顔をする黒鋼にサクラは、小狼を庇うようにして「わたしがあの木の蔦に吊られてしまって、それを助けようとして…!」と言った。

「まあ桜都国ではああするしかない状態だったとはいえ剣を扱うにはまだまだだな」
「先生きびしー」
「…ねぇ、なんかヘンな匂いしない…?」

名前が目を細めて口にするとモコナが声を張ってこう口にする。

「あっち!煙だ!!」

四人がもくもくと舞い上がる煙が出てくる方に目を向けると、そこにはサクラの言っていた耳としっぽが生えた小さい人…らしき者達が。
取り敢えず危険な状況には違いないと急いで走った。

「小狼君!!」

小狼の方を焦って見てみると、そこには…

「あ」

暢気に食事を摂る小狼がいた。因みに煙は単に火を起こしていただけである。

こけっと転がる名前達の元へやって来て、小狼は「大丈夫でしたか?」と訊ねてきた。

「小狼君は!?タンコブできてる!」

駆け足で小狼のところへ行き、コブができている後頭部をサクラが優しく撫でると小狼はどこか照れ臭そうに頬を緩める。

「なんかすごく初々しいね〜」

二人を見ながら名前がそう言うと、「うんうん。二人とも可愛いの!」とモコナはピョンと跳び跳ねた。

(名前も最初は凄く照れ屋さんだったんだよー。今も相変わらずだけど)

なんて彼女の横顔を見詰めつつ、ファイは懐かしげに微笑んだ。

昔のことを思い出しても、段々寂しくならなくなってきたことを実感する。
それは、今少しずつ名前との距離が縮まってきているからなんだとファイは思った。
まるで初めて会った時のように。
頑張って距離を縮めていこうと思っていたあの時のように。

「それにしても、そのタンコブ大丈夫?」
「でっかいたんこぶー」
「平気です。それに、色々事情もあったみたいですし」
「事情ー?」

一向が立ち話をしていると、続々と小さい人(?)達が周囲に集まってきた。

「なんだ、てめぇら?」

ギロッと黒鋼が酷い目付きで睨むと、ささーっと驚いた住人達は小狼の後ろに隠れてしまい、すっかり怯えている。

「ちょっ、黒鋼ー…」

名前が小声で黒鋼にそう言うと、よく分からないといった表情で彼は「あぁ?」と眉間に皺を寄せた。

「このヒト、顔こわいけど、取りあえずいきなり噛みついたりしないからー」
「このヒト服装怪しいけど、取りあえず悪いこと企んでもいないから、ね?」

ファイと名前が黒鋼を指差しながらへにゃんとした顔でそう口にする。
そんな彼らを前にして黒鋼は怒りを耐えていた。

「取りあえずってのは何だ!!」
「えへへ〜怖い顔はいいんだー」
「怪しい服装ってのも否定しないんだ〜」
「わー、黒鋼達仲良しー!モコナも入れてー!」

小狼の頭からピョンと跳び跳ね、モコナはこちらへやって来た。

そして、これから三人と一匹の仲良さげな論争が始まるのである…







「魔物がいるんだそうです。この森を抜けて更に奥の樹海に。突然現れてこのひと達の住んでる所を荒らし廻って」
「みんなで戦った。けどぜんぜんダメ。あの恐ろしいもの、イケニエささげろっていった。おいしそうなイケニエ渡したらもう森荒らさないって」
「で、おいしそうな小狼君を捧げようとしたとー」
「モコナも美味しそうなのにーぃ。っていうか満漢全席に匹敵する御馳走加減なのに〜ん」
「で、焼いて捧げられそうになったっつうのに何のんきに飯食ってんだよ」

皆が気になっていたそのことに対し、小狼は真面目な表情でこう答えた。

「その魔物、話を聞いていると本当に急に現れたらしいんです。そして圧倒的な力を持っている」
「今までのサクラちゃんの羽根絡みの事件と似てるかもー」
「あの恐ろしいものが現れないように出来るかもしれないって、これいった。だからほどいた。これ、くわしいことが聞きたいといった。だから座った」
「いっしょに座ったら仲間。仲間ならいっしょに食べる」
「なるほどー」
「いやいや、これってなるほどっていうとこなの…」

少々苦笑気味に名前が言うと住人達は、「いっしょに座った。だからそっちも仲間。仲間だからいっしょに食べる。どうする?食べる?」と聞いてきたものだから、名前は「大丈夫だよ、ありがとう」と優しく答えた。

「モコナ、羽根の気配は?」
「…うん、感じる。近い」
「魔物退治ってわけか」
「黒様うれしそー。テンション上がってたのに不完全燃焼になっちゃったもんねぇ」
「ふん」

すると突然サクラが「わたしも行きます」と真剣な表情で口にする。

「姫…」
「足手まといにならないように頑張ります。一緒に行かせて下さい」
「…はい」
「みんなで行くのだめ!だめ!」
「え?え?」
「みんな行って帰って来なかったらイケニエいなくなる。ひとり残って!」
「あははは、しっかりしてるー」
「でも、誰を…」

悩み始める一行の中で、ファイがこう考察した。

「モコナを残しちゃうのは問題かもー。いざという時、言葉が通じなくなると困るし。黒りーはもちろん行く気満々だしー。じゃあ、オレ残るよー」
「でも…!」
「待って!じゃあ私が残る!」
「サクラちゃんは行って来てー。危ない目に遭うかもしれないけどそれでも行きたいんでしょ?」
「はい」
「それに名前ちゃんはー。名前ちゃんがイケニエにされるならオレがなるからー。心配しないでー」
「いやだ!それじゃ私がいやだよ!…我が儘でごめん。でもファイが…」

悲しそうな表情をする名前にファイは、「ここまで来たら名前はもう引き下がらないだろうな」と思い彼女の目線に自身の目線を合わせ、ポンと頭を撫でた。

「じゃあさ、一緒に残ろうか」
「うん!それだったら!」

パッと明るくなる彼女の表情を見て、ふふっとファイは笑みを溢す。

「それじゃあオレ達はここで応援してるよー」
「頑張ってー」

ブンブンと手を大きく振り、名前とファイは小狼達を見送った。



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