「領主だ!あいつがやったんだ!!」
「おれ、ちょっと町に出て色々と調べてみます」

そう言い立ち上がる小狼。

「なら、私も行く。そうじゃなきゃ此処に戻って来れないだろう」
「ありがとう、春香」
「私も行きたい。少しでも力になりたいの」
「モコナも行くー!」

サクラの頭の上に乗り耳をパタパタさせて小狼にそう言った。

「ありがとうございます」
「じゃあ私は家で見張りしてるね。またあの男の人が来ないか心配だし」
「うん、じゃあオレら待ってよっかー。その間に屋根も直さなきゃー。ねー、黒りーん」
「何でこういっつもいっつも俺なんだよ!」

しかし何だかんだ言って黒鋼ならやってくれるはずだ、と皆がそう思っている。

旅をし始めてから数日。
段々とそれぞれの性格が分かってきたようだ。







「何でっ!俺がっ!人ん家!直さなきゃ!ならねぇんだ!よっ!」

屋根の上でトンカントンカン鳴らしながら愚痴を溢す黒鋼。
それに対しファイは、「一泊させてもらったんだから当然でしょー」と言い次々と板を渡していく。

「しかし、あの子供一人で住んでるとはな、この家」
「んー。お母さん亡くなったって言ってたね、春香ちゃん」
「……………」
「おい、あの女さっきっから何も喋ってねぇぞ」

突風のせいで壊れた屋根の木の破片や欠片を拾い集める名前は、次第に拾う手の速さが落ちていき、とうとう動きが止まってしまった。

「名前ちゃん、どうしたの?何か心配事?」

名前の目の高さに合わせるために、しゃがみこんでいる彼女の隣に自分も腰を降ろす。

「春香ちゃん、お母さんだけじゃなくてお父さんもいないのかなって…」
「……………」

ファイには、名前が何を言いたかったかその一言で察した。

未だに名前の旅する目的をしらない黒鋼には分からないけれど。

「私ね、両親、居ないの。二人とも誰かに殺されて、私が小さい時に亡くなった。私が旅をする理由は、母さんと父さんを殺した人を探し出すこと。別に仇を取るわけじゃないんだけどね」

笑ってはいるものの、実際に彼女が言っていることは残酷なものだ。

シンと静まり返る空気を追い払うかのようにして名前はまた笑顔を見せる。

「…あ、余計な話してごめんね。破片、拾わなきゃ」

焦って破片をかき集めたせいか、その時指を何ヵ所か切ってしまったがそれをバレないように上手く隠した。

「で、いつまでここにいるつもりなんだ?」

始めに沈黙を破ったのは黒鋼。

「それはモコナ次第でしょー」
「あーくそー!なんであの白まんじゅうはあの小狼(ガキ)の肩ばっか持つんだ!」

怒りに任せているせいか、とんかんとんかんと先程よりも釘を打つスピードが速くなる。

「黒様危ないんじゃない…?」
「あははは。黒様のことなら心配ないよー。それより、春香ちゃんの案内で小狼君とサクラちゃんとモコナで偵察に行ったし、何か分かるといいねぇ」
「しかし大丈夫なのか。あの姫出歩かせて。しょっちゅう船漕いでるか寝てるかだぞ」

するとファイは切なげな表情でこう言った。

「足りないんだよ、羽根(キオク)が。元のサクラちゃんに戻るためには。取り戻した羽根は二枚だけ。戻った記憶はあるみたいだけど」
「まだ意志とか自我とかそんなものがないんだ、今のサクラちゃんには。だから異世界を旅するオレ達に何も逆らわずついて来ただろ?まぁ羽根が戻っても、」


小狼君との思い出は戻って来ないけどね…─────


名前にそのファイの台詞が重く響く。

ここにいる誰よりも長くいたはずなのに、小狼といた今までの時間は、サクラの中で消去される。

こんなにも近くにいるのに、手を伸ばしても届かない…

近いのに、遠い。


それがどんなにもどかしくて空しいことなのか…

知っているのは、小狼とファイの二人だけなのだ。

「それでも探すでしょう、小狼君は。色んな世界に飛び散ったサクラちゃんの記憶の羽根を。これから先、どんな辛いことがあっても」

(オレだって、名前の記憶、取り戻すから…絶対に)

空を見上げながら言う彼の横顔を、名前は儚げに見ていた。

「とにかく、修理しながらみんなを待とうねー。おみやげあるかなぁ」
「って…」
「ナニ茶飲んでくつろいでんだよ!」

んー?とファイが黒鋼の方を見るが、それはやってはいけない行為だったかもしれない。

ブンッと勢いよく投げ、トンカチをファイの頭に命中させる。

「ちょ、ファイ大丈夫!?」
「うん、平気ー。でも、ちみっと痛いかもー」
「何が痛いかもーだ!おまえもヤレよ!!」
「やー。黒ぴっぴの働く姿を見守ろうかなーって」

そう言うと、今度は板がファイの頭に落ちてきた…







「おかえりー。どうだった?名前ちゃんとも黒たんともずっと言葉が通じてたってことはあんまり遠くに行かなかったのかな。何か──あったみたいだね」

俯いている春香。
その姿から察するに、何か嫌なことが起きたのだろう。

「そっかー。また領主とかの“風”にヤラレたんだー」
「しかし、そこまでやられてなんで今の領主をやっちまわねぇんだ」

ピンッと黒い粒を人差し指で飛ばして遊んでる黒鋼。
二度目に飛ばした時は少し勢いがつきすぎたのか、名前の目の前に飛んできたためそれを見事に名前がキャッチ。

「やっつけようとした!何度も何度も!でも領主には指一本触れられないんだ!領主が住んでいる城には秘術が施してあって誰も近寄れない!」
「なるほどー。それがモコナの感じた不思議な力かー」
「不思議な力がいっぱいで羽根の波動、良く分からないの」
「…あ!ちょっとー!」
「へっ!ざまぁみろ!」

せっかく自分の方に飛んできた粒で遊んでいたのに、再度それは黒鋼の手に渡ってしまった。

「あの息子のほうはどうなの?人質にとっちゃうとかさー」
「…おまえ、今さらっと黒いこと言ったな」
「へろっと軽く言ったよね…」
「ファイ、イカスー!」
「ん?」

満面の笑みでそう言われても、何て返事をしてよいのやら。

言った本人は何が黒かったのか、どうやら分かってないようだ。

「だめだ!秘術で領主は蓮姫の町中を見張ってる!息子に何かしたら…!」
「昨日とか今日の小狼君みたいに、秘術で攻撃されちゃうかー。一年前、急に強くなったって言ってたね、その領主。サクラちゃんの羽根に関係ないかなぁ」

ファイの言った言葉に小狼が大きく反応したのは、言うまでもなかった…



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