「ゴホッ…っ、ゴホッ…」

ここ数日、明らかに体調がおかしい。
熱っぽいし咳も出るし喉も痛いしで、そんな状態のまま薬も飲まず普段通りに生活していたものだから、前より酷くなってしまった。
立っているのすら難しい。

心配かけないようにと気を付けていたのに、逆に皆を心配させる結果となった。

「なまえさん、大丈夫?」
「全然大丈夫。…ゴホッ。なんか、喉が痛いだけだから」

そう言い大きな荷物を無理に運ぼうとするなまえに気付き、彼女の手に自身の手を重ねるファイ。

「オレ、やっとくよー」
「いいよ、そんな」
「ううん、大丈夫だからー」

そして、荷物を運んで行く彼の後ろ姿をボーッと眺めていた。
焦点が定まらない。
若干ファイの後ろ姿がぼやけて見えるのは、気のせいだろうか。
それすらも定かでない。

(なまえの手、熱かったなぁ…)

前から彼女の体調がおかしいことは分かっていたが、今確信した。
きっと風邪を引いているんだと。

大丈夫かと何度も尋ねてはいるものの、彼女は大丈夫の一点張りで、笑顔を見せる。
心配かけないように配慮してくれているのは分かるが、倒れそうになるくらいまで、ここ数日彼女は辛さを堪えていたのだという事実に胸が痛くなる。
そして何よりも、自分にだけは本当のことを言って欲しかったというのが本音だった。
まぁ、自分を誰より大事に思ってくれている彼女だからこそ、「ファイにだけは辛いなんて言えなかった」と、言うのだろうが。

「ファイさん、ファイさん大変です!なまえさんが!」
「!?」

階段を上っている途中、焦りに満ちたサクラの声が聞こえた。
何かと思い急いでリビングへと戻ると、苦しそうに肩で息をするなまえが倒れているではないか。

「オレ、なまえを部屋まで運ぶから、サクラちゃんはお水と薬…あとは濡れたタオル、持ってきてくれるかな?」
「は、はい!」

そう言いファイはなまえを抱き抱えて階段を再度上って行った。

なまえの自室に着き、ベッドに寝かせ毛布をかける。
相当酷い熱なのか、頬が赤い。呼吸も不規則で、本当に辛そうだ。
出来ることなら、代わってやりたい。

「ファイさん、持ってきました」
「ありがとー」

そして薬を飲ませようとする。

が、彼女の口が思うように開いてくれない。
漸く薬は口に入れることが出来たが、水だけがどうしても入れられない。

「ファイさん…?」

いきなりのファイの行動にサクラは目を丸くする。
突然水を口に含み、ベッドで寝ているなまえの顔の横に手を突き口付けた。

「んっ…」

なまえが水を飲み込んだことを確認すると、ゆっくりと唇を離すファイ。
一部始終を見ていたサクラの表情は少しだけ赤くなっていた。

「サクラちゃんに風邪移っちゃうとアレだからー、オレなまえのこと見てるよー」
「でも、ファイさんが…」
「気にしないでー。寧ろなまえと代わってあげたいくらいだから、オレなら移っちゃってもいいしー。サクラちゃんは黒様と小狼君の帰り、待っててあげて」
「はい」

そう言い残したサクラはバタンと扉を閉め、

(ファイさんは本当になまえさんのこと大事に思ってるんだ…)

と、心の中で微笑んだ。

「ゴホッ…」

何故今までちゃんと休ませてあげなかったのだろうと後悔する。
こんな時、無性に手を握りたくなるのは何故だろう。
ファイは両手でなまえの左手を包み込むように握り締める。
けれど、何時もなら握り返してくれる彼女の手に力が入ることはなかった。

ごめんね…と何度呟いたことか分からないくらい、彼女に謝りたい気持ちでいっぱいだった────
















あれから何時間が経過しただろうか。
不意に窓の外を見ると、いつの間にか真っ暗になっていて、更には激しい雨が降っていたことに今更ながら気が付く。

「ゴホッ…ファイ?」

辛そうに自分の名前を呼ぶなまえに慌てて振り返ると、少なからずとも笑みを浮かべたなまえが目に映った。

「ずっと見ててくれてたんだ…」

土砂降りの雨の音と、それに掻き消されてしまうくらい弱々しい彼女の声だけが虚しく響き渡る。

ファイが自分をずっと看病してくれていた、と安心したかの様に目を細め、柔らかく微笑む彼女に優しくこう返事をした。

「当たり前でしょー。辛そうにしてるなまえをオレが一人にすると思うー?」
「ううん。でも・・ごめんね、心配かけちゃって」
「なまえの心配なら幾らでもするよ、オレ。だからさ、本当はオレに言って欲しかったんだ、風邪引いてるから辛いんだって」

そう言うと、彼はなまえの頭を優しく撫でた。
何でだろう、ファイに言われると底知れぬ安心と落ち着きを感じるのは。

「でも、なまえがオレのこと考えてくれてるんだと思うと、やっぱり嬉しいんだけどねー。少し体調回復したみたいで良かったよー」
「うん、ファイが見ててくれてたお陰。でもさ、移るよ、風邪」
「移してよ、オレに。なまえの苦しそうなとこ、もう見てられないからー」
「ダメだよ、そんなこと。だから、ほら。…ゴホッ、戻って」
「なまえと一緒に居られるなら本望だよー」

笑いながらそう言って見せるファイに、涙腺が緩んだ。

溢れ出しそうな涙を塞き止めようと、無理矢理目線を上に向ける。

「ごめんね」
「謝らないでー。オレがなまえの側に居たいだけだからー。ね?」
「ありがと……」

とうとう耐えきれなくなり、溢れ出てしまった涙。
それを拭うかの様に次々とキスを落としていくファイ。

結局何時も彼に助けられてばかりで。
それでも全く迷惑がらない彼がいて。
それどころか本望だとまで言ってくれた。

もう、泣かせてくれるなっ
と胸中で呟く。
彼が大切で…大好きで堪らないっていう気持ちは、何年経っても変わらない。絶対に。

私と彼に出会いをくれたあの日の偶然に、ありがとう。



お互い特等席は、



君の隣。



───────────

まず、本当にすみません。
黒様と小狼は出て来ないわサクラは空気だわ視点はコロコロ変わるわで…しかも雨って何事。
まぁ確かにファイ夢なんで他の三人は置いといたとしても視点が…
更には薬を口移s(ryっていうベタな展開に…!!

まほまほ様、折角風邪シチュという萌え要素満載なのをリクしてくださったのに、萌えどころか萎えてしまうかもしれない様な話ですみませんでした orz


20100806


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -