少し考える時間が欲しい。

そう言っていれば、彼女は答えを変えていた?
まさか、そんなわけない。
彼女の願いに対する想いは強かった。
けれどそれ以上に、オレを想ってくれていたのは知っていた。
だからこそオレは彼女を止めはしなかった。
あの時、「対価はファイとの記憶」と告げられて絶句していた彼女がどうするか。対価を払ってでも旅をするかそれとも───

オレは彼女の言った事を受け止めようと、そう決めた。
よく考えれば、対価を払うこと以外に彼女に道は無かった。
例えセレスに戻っても、彼女は一人きりになるのだ…

「今寂しかったりするー?」
「どうしたの、いきなり。…うーん、寂しくはないかな。何というか、友達ができて嬉しい、かな。何か私こんなこと言ってるとさぁ、どれだけ昔寂しい想いしてきたのって感じだよね」
「実際はどうだったのー?」

すると彼女は、またも「うーん」と悩み始めた。何だか返事が怖い。

「あのね、昔は三人知ってる人が居たの。毎日楽しかったよ。私ね、小さい頃その三人のうちの一人に頑張って話し掛けようと一生懸命だった時があってね」

初めて会った時は友達なんていなかったからその子と目を合わせることもできなかったんだけど。
私はたまに…ほんとにたまにだけど笑ったりしてた。

でもその子全く笑ってなくて。
そう言えば笑ってるところ見たことないなー…って思ったからある人に聞いたの。

「どうしてあの子笑わないの?」

って。まだ小さかったからって、流石に聞いちゃいけないことだったなって反省してるんだけどね。

それから、笑ってくれないかなー…と思いながら何度も何度も話掛けたんだけどさ、あんまり反応見せてくれなくて。
結局その子、一度も笑ってくれなくてショックだったかな。
それどころか、何だか避けられてる様な気さえしたから私もそれ以上嫌われる事が怖くなって避けちゃったんだ。

でも、何故かその子が何時しか話掛けてくれる様になって、それから段々仲良くなって…

結局はお互いいつの間にか好きになってた。けどね、いつも一緒に居るのが当たり前だったから好きだって気持ちに気付かなくてさ、私。
最初に好きなんだって自覚したのはその人だった。

「……………」
「という思い出話。その人が今何処で何をしてるのかなって。そういうこと考えたら、やっぱりちょっと寂しのいかな」

今隣に居るのは誰?
君の隣に居るのはあの時のオレと確かに同じオレなんだよ。
なんて言えたらどんなに良いか。

それでもどうしてか、その時オレには寂しさとかそう言ったものの感情はなかった。
彼女の心の十割全てが寂しさとかを感じてるわけじゃなくて、嬉しいだとかそんな感情を抱いてると知って安心したから。

「今でもその人の事、好きなのー?」
「勿論!顔とか身長がどれくらいだったとか全く覚えてないんだけどね、大好き。よく昔のこと思い出すんだけどね、凄く楽しそうに幸せそうにその人と話してる自分がいるから。いつかまた、会えるよね」
「うん、絶対会えるよー」

今はまだ何も知らない君だけど、確かにオレ達はもう会ってるから。
だけどいつか、心の底から「やっと会えた」って言える日が来るって、オレは信じてるから。

人はよく、好きにならなきゃ良かったなんて言うけれど、オレはそうは思わない。本当に、君に会えて幸せだったよ。
あんなに頑張って昔笑う事を知らなかったオレに話掛けてくれたから、今度はオレが、君の為に一生懸命に一生懸命に頑張るよ。






オレは絶対、過去から逃げない。



「なまえ…」
「え?」
「あ、いきなりごめんね、なまえちゃん」



──────────

最初の方までは彼女彼女って夢主のこと言ってましたけど、敢えて最後にだけ名前持ってきました。
策略です(笑)

てかあんま切なくないですねこれ…ご期待に添えなくてすみません。
でもいつか、「やっと会えた」って台詞をファイさんに言っていただきたいです。いつになるかは決めていませんが。
予定と未定は紙一重。隣り合わせ。

侑紀様、リクエストありがとうございました!


20100804


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