シザンサス







「こんなとこで何やってんだよー、グレイ」


妖精の尻尾を出て、少し歩いたところにある小さな川岸。
探し人であるグレイが、其処に座っているのが見えた。
オレは急いで駆け寄り、後ろから声をかけた。
振り向いたグレイの目は、何処か哀しげな色をしていて、力なく笑った。
隣に腰掛け、再度どうしたんだ、と訊ねてみれば、グレイはゆっくりと口を開いた。


「ナツはさ…」

「ん?」

「イグニールが迎えに来たら、妖精の尻尾を出るんだろ…?」


オレ…またひとりかぁ、
と寂しそうに笑ったグレイに、胸が痛くなった。
…そうか、こいつには迎えに来てくれる親がいない。
昔、面倒を見てくれた師匠もいない。
───ひとり、なんだ。
そう言えばこいつ昔、ひとりで妖精の尻尾に来たな。

イグニールには、会いたい。
迎えに来たらイグニールと一緒に行きたい。
でも、グレイとは離れたくない。離したくない。
その繊細な心を、守り続けたい。


「グレイ、」


肩を抱き寄せ、身体を密着させるとグレイは顔をほんのり赤らめた。
その仕草、一つ一つがたまらなく愛しい。


「イグニールが迎えに来たら、さ」

「…ぅん」

「お前も一緒に来てくれないか」


オレがそう言うと、しばらく間があいた後に小さく、え、と聞こえた。
見開かれた黒真珠を、じっと見つめる。


「グレイと、ずっと一緒にいたいんだ」


そう言って抱き締めると、耳元でグレイが小さく、嬉しい…と呟いた。
そのまま背中に手を回され、抱き締め返される。


「オレも、ずっとナツと一緒にいたい」

「じゃ、決まりだな」


そう言って、にっこり笑いながら立ち上がると、グレイの手を握ってオレ達はギルドに戻った。
いつまでも一緒にいて、この手は絶対に離さない。






 * * *

 * * *






「よぉ、ナツ!お前川岸でグレイにプロポーズしてたんだって?」

「何て言ったんだよ?グレイは返事したのか?」


ギルドに戻れば、何故かみんなに茶化された。
誰がそんなこと言ってたんだよ!、と聞けば、どうやらハッピーの仕業らしい。
呼び出して、問い詰めれば当の本人はきょとんとしていた。


「うぇ?だって、ナツ“一緒に来てくれないか”とか“グレイとずっと一緒にいたい”とか言ってたから」

「だぁあーっ!いちいち言わんでいい!」


更に茶化される一方だった。




















シザンサス

(あなたと一緒に)








[ 25/26 ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -