オドントグロッサム
「きゃぁああ!」
突然の高い悲鳴に、ギルド内にいた全員が驚いてびくりと肩を揺らした。
声の主はルーシィだった。
「な、何だ何だ!」
「どうしたよ、ルーシィ」
心配そうに駆け寄る仲間とは裏腹に、ナツは呆れたような表情を浮かべながらゆっくりと歩み寄る。
「ちょ、早く来てよ!さっきゴキブリがいたの!」
「はあー?そんなことでいちいち叫ぶなよ」
ルーシィの言葉を聞くと、ナツはつまらなさそうに180度回転して戻ろうとする。
「何よ、あの態度!もう」
溜め息混じりに言いながら、ルーシィが仕方なく新聞紙を丸めて、ゴキブリとの戦闘体制に入ろうとしたその時だった。
「いやあぁあっ!」
別の悲鳴が違うところから聞こえ、反射的にそっちに目をやれば、震えながら座り込むグレイの姿。
「グレイ、どうし…」
「どうしたグレイ!何があったんだ!?大丈夫か!」
私が駆け付けるより先に、ダッとマフラーを靡かせながら前を駆け抜けてきたのは、ナツで。
「さっきのゴキブリか!?よし待ってろ、オレが始末してやる」
「ぁ、あしに…っあいつ、オレの足に乗ってきやがった…!」
しゃっくりをあげながら抱きつくグレイを、ナツは手に炎を纏いながらよしよしと頭を撫でている。
私の時とは、心配の仕方が全くの大違い。
ちょっとムカついたけど、やっぱりナツにとってグレイは特別なんだって、今日改めて実感した。
「あ、いた!ナツ、彼処だ!」
「よっしゃ!火竜の…、咆哮!」
─ブォオォオオオ!!
「くぉらぁあ!やめんか、ナツ!」
オドントグロッサム
(特別な存在)
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