ミムラス






「…ミラちゃん、ナツは…?」

「それが、まだみたいなの…」


困ったように笑うミラちゃんに、そっか…と呟くように返事を返して、カウンターに座る。
ナツが仕事に行って、今日で何日目だろうか。
数える気力もなく、オレは毎日椅子に座ったまま、その場でぼーっとしていた。
連絡もなければ、全く帰って来る様子もない。
本当は一緒に行く予定だったが、オレが熱を出してしまい、ナツが一人で行くことになった。

あれから熱もすっかり治り、オレの体調も完全回復した。
なのに、ナツはまだ帰って来ない。
何かあったんじゃないか、という不安に対し、ナツを信じたいという気持ちが入れ混じり、複雑な気持ちが胸の中でもやもやする。
正直、心配でたまらない。
多分、もう一週間くらいは軽くたってるんじゃないか。
そう思うと、頭が不安でどうにかなりそうだった。
無意識に、首からかけている十字架のネックレスをぎゅっと握り締める。

すると、ふいにミラちゃんがオレの前にハンカチを差し出してきた。
意味がわからず顔を上げれば、再度困ったように笑ったミラちゃんと目があった。


「ほら、グレイ泣かないで?」


えっ、と声をあげて頬に手を伝わせると、冷たい水滴が頬を濡らしている。
オレは、泣いていた。


「ナツならきっと大丈夫よ。帰って来たら、会えなかった分たくさん甘えればいいじゃない?」

「…うん、ありがとう」


ハンカチを受け取って、オレはカウンターの机に突っ伏せた。

…気遣わせてごめんな、ミラちゃん。
でも、今は泣かせて欲しい。
じゃないと、気持ちが落ち着かないんだ。






 * * *

 * * *






「たっだいまー!」

「おぉ、ナツ戻ったか!」


──翌日。
ギルドに大好きな騒がしい声と、誰かが発した愛しい人の名前。
いつものように、カウンターの椅子に掛けていたオレは、思わず反射的に振り向いた。


「よ!グレイ」


視界に入った桜色に、オレはいてもたってもいられなくなって、そのまま駆け出す。


「熱治ったんだな!よかっ…、!?」


ナツの言葉を遮って、勢いよく抱きつく。
いきなりの出来事に、一瞬よろめいたナツだったがしっかりオレを、両手で受け止めた。


「っと…危ねぇな、グレイ」

「ナツ、なつ…っ!」


必死に名前を呼びながら、存在を確認する。
しがみつくようにナツの服をぎゅっと握り、胸に顔を埋めた。
そんなオレを見て、ナツは何かを察したように、オレの頭を優しく撫でてくれた。


「…、ごめんな。寂しかったか…?」


しゃっくりをあげながら、こくこくと何度も頷くと、頬を両手で包まれ顔をあげさせられる。
そのままそれに従うと、ナツは微笑みながらオレの目から溢れ落ちる何かを、指で拭った。


「泣くなよ、ちゃんと帰って来たろ?」


それは、涙だった。
オレはいつの間にか、泣いていた。
せっかくナツが拭ってくれているのに、止まることを知らないかのように、次から次へとどんどん溢れ出す涙。
ナツは苦笑いしながら、オレの頭を再度くしゃりと撫でた。


「ただいま、グレイ」

「おかえり…」

「おう!」


安心のせいか、止まらない涙を必死に拭い続けるオレに、ナツはにっこり笑って言った。


「笑ってくれよ、グレイ」


その言葉に笑みを浮かべれば、ナツは満足そうに笑った。




















ミムラス

(笑顔を見せて)








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