アカンサス

※死ネタ。二人とも死にます。






「……グ、レイ」


僅かにしか残っていない力を振り絞ると、ナツはありったけの力で隣で倒れている愛しい人に、必死に手を伸ばす。
喉が乾いて、掠れる声。
口内に広がる鉄分の味と、鼻を霞める血の生臭い匂い。
目の前に横たわるグレイの腹に視線を落とせば、微かに上下している。
──よかった、まだ生きている。
そう悟ると、ナツは無意識に安心の溜め息を吐いた。
重い身体を必死に持ち上げ、じりじりと引きずりながら、グレイの隣まで近寄ると、そのままその場に倒れ込む。
すると、地面に溜まった血が跳ねた。
その勢いで、宙を舞った血がグレイの頬を汚す。
それを拭おうと、震える手を必死に伸ばしてグレイの頬に触れた刹那、グレイの目がゆっくりと開かれた。


「……な、つ」


本当に本当に、小さな声だった。
だが、ナツはそれをしっかりと耳で拾い上げた。
此方を振り向いた、弱々しいグレイの顔。
優しく微笑んで、そっと頭を撫でてやると、彼もまた幸せそうに微笑んだ。
…やっぱり、綺麗だ。
こんな状況に陥ってしまっている今でも、そんなことを思ってしまう自分は、本当どにうかしてしまっていると思う。
ナツは上手くまわらない頭のすみで、そんなことを考えていた。
ふいに、頭を撫でていた手を力なくきゅっと握られて、ナツは軽く目を見開く。
反射的に視線をそっちに向けると、グレイが自分の手を貝殻繋ぎにしているのが目に入り、ちくりと胸が痛くなるのを感じた。
いつもより、厚い水の膜を張った黒真珠に見つめられ、今すぐに抱き締めてやりたくてたまらない衝動に襲われる。
だが、この動かなくなった身体を、どうやって動かせというのだ。
悔しさに歯を噛み締め、ナツは腕を伸ばしてグレイの身体を、優しく抱き寄せる。
これが、限界だった。
繋がれたままの手に、最高の幸せを感じながら、お互い静かに息を引き取った。






 * * *

 * * *






私たちが駆け付けたときには、もう既に遅かったらしく、二人は息をしていなかった。
弱い私には、泣くことしかできなくて。
何より、信じたくなかった。


「嘘よ!二人が死ぬわけない!私達は最強チームなんじゃなかったの!?」

「ルーシィ…っ」


いくら嘆いても現実は現実。
受け入れなくてはいけないことは、痛いほどわかっていた。
背中を擦ってくれるハッピーも泣いている。
そうよ、辛いのは私だけじゃない。
仲間を失なくした妖精の尻尾のみんなだって、私と同じくらい辛いはず。


「死ぬ寸前まで一緒だとは、本当に呆れる奴らだ…」


泣きながら言うエルザは、怒っているのか悲しんでいるのかわからない、複雑な表情をしていた。
だけど、私が見るからに彼女はとても微笑ましそうだった。


「本当、呆れるわよね…」


そう呟いた私の目の前には、グレイを抱き寄せるナツ。その手を握って離さないグレイの冷たい身体。
──しっかりと握られている二人の手は、かたく結ばれていてとても離れそうになかった。




















アカンサス

(離れない結び目)









[ 18/26 ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -