風鈴草







「こんの、馬鹿野郎!」


急にガシッとナツに胸ぐらを掴まれ、恐怖に思わずぎゅっと目を瞑る。
そっと目を開けると、怒りに満ちたナツの目。
本気で怒っている。
だが、その瞳は揺らいでいて、どこか悲しそうにも見えた。


「二度とあの魔法使おうとするな!」


そう怒鳴り付けると、今度は乱暴にオレを腕の中に閉じ込めた。

あの魔法──絶対氷結(アイスドシェル)のこと。
己の身を、自ら滅ぼす魔法。
オレはみんなを守りたいがため、自分を犠牲にしようとした。
──みんなを残して死のうとした。
顔を埋められた肩が、ナツの涙でほんの少し冷たかった。
ナツが泣いてる、本気で心配してくれたんだ。


「ご、めん…」


そう言って頭を撫でてやると、ナツは涙を乱暴に拭って、ぼそりと呟いた。


「…オレの大切な人は、いつもみんなオレを置いていく」


かつてのナツの義父、イグニールもそうであった。
それをふと思い出さされて、自分のしようとしたことに、胸が痛くなるのを感じた。


「今はグレイしかいねぇんだよ……なのに、」


せっかく止まりかけていたナツの涙が、再び地面に叩きつけられた。


「お前もオレを置いてくのか」

「ナツ……」

「もう一人にすんな…っ馬鹿」


痛々しい。
こんなに頼りないナツは、初めてだ。
オレにすがり付くように抱き着いて、再び涙を流した。


「ごめ…っ、ごめん…ごめんなさい」


オレがさせたんだ。
オレがナツを傷つけた。
ナツにこんな悲しい想いさせたのは、オレだ。

──確かにあの時、ナツが止めてくれなかったら、オレは今頃デリオラの氷だ。


「ナツ、ごめんな」


それと、


「ありがとう」


伝えたいのは、
謝罪の言葉だけじゃ、ないよ。



















風鈴草 -フウリンソウ-

(感謝)








[ 22/26 ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -