立浪草
※死ネタ。グレイ転生魔法遣えます(パロ)
「ナツ…っ!」
血の海を走って、辿り着いたときにはもう遅かった。
其処には、ぐったりとして動かなくなったナツの姿。
綺麗な桜色も、うす黒い朱に染まっていて。
触れてみても、体温は非常に低く、心臓は動いていなかった。
誰が確かめても同じ。
あとから駆け付けた、エルザやルーシィ達も確信した。
───死んでいる、と。
「いやぁああ!ナツ、そんな…嘘でしょ…!?」
「っ…、こんなことになるとは」
泣き叫ぶルーシィに、涙を堪えるエルザ。
ナツが、死んだ…?
そんなわけない、そんなことあるはずがない。
いくら頭に言い聞かせても、目の前の動かない身体を見れば、嫌でもこれは現実だと思わされる。
ふいに頭を過ったのは、転生の魔法──自らの生命を他人に分け与える。
すなわち、自分の生命と引き換えに、他人を生き返らせる魔法。
世界に、ほんの数百人ほどしか出来ないと言われている魔法。
妖精の尻尾では、オレしか出来ない特別な魔法。
自分自身が叫んでいた。
今遣わなくて、いつ遣うんだ?と。
「ルーシィ、退いてくれ」
「え…?」
ナツの前に座ると、彼の胸に手を翳して魔力を手に溜める。
ありったけの魔力を、全部手の中に。
「おい、グレイ。何をするつもりだ」
エルザの焦ったような声に、止めないでくれ、とだけ言い放った。
ルーシィは、わけがわからないと言った様子で、心配そうにオレを見つめる。
「大丈夫。ナツは死なせない」
ある程度魔力が溜まったところで、ぐっとナツの身体に埋め込むように魔力を押しつける。
ナツの身体が緑色の光で包まれた。
「グレイ!その魔法は…っ」
オレがしようとしていたことに気付いたエルザが、血相を変えて目を見開く。
そんなエルザに、オレにっこり笑って答えた。
「ナツが起きたら、愛してるって伝えてくれな」
魔力を全部、埋め込むと同時に、オレは目の前の唇に最後の口付けを交わした。
* * *
* * *
──心地よい、温かな光。
誰かに似ているような気がする。
誰かに…。愛しい人に。
そう、グレイに。
「──…─ツ!ナツ!」
「え?」
突然聞こえたルーシィの声に、思わず目を覚ます。
「ナツ!よかった!目覚めたのね!」
あれ、何でオレ…あんな状況に陥ったのに生きてんだろ。
自分でいうのも何だが、あの状況は絶対に死んだと思った。
「っ?」
身体が重い。
なんか、すげぇ魔法かけられた後みたいに。
そう思いながら身体を起こすと、隣でグレイが倒れていた。
「ぐ、グレイ…?」
揺さぶっても起きない。
まさか、と嫌な予感が微かに頭に浮かんだ。
「…ナツ、いいか。よく聞け」
エルザに肩を捕まれ、力が入らなくなる。
その、嫌な予感が的中しそうでこわかった。
だが、それはすぐに確信に変わる。
「グレイはお前に、転生魔法を遣った。自分の命と引き換えに、お前を生き返させたんだ」
「それは、どういう…っ」
「…グレイは死んだんだ」
──声が出なかった。
グレイが、死んだ…?
オレのために転生魔法を…。
嘘だと言いたかったが、触れた冷たいグレイの身体が、そうはさせてくれなかった。
「ぁ、あ…なんで、」
「それと伝言だ。グレイから」
グレイ、の名前に反応して顔をあげると、エルザも酷く辛そうな表情をしていた。
「…“愛してる”だと」
「う、あぁああぁぁああああっ!!」
今のオレには、己を感情に任せて泣き叫ぶことしか出来なかった。
───オレだって、愛してるよ。
立浪草 -タツナミソウ-
(私の命を捧げます)
[ 23/26 ]